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若手の力量にうなる 小説家・逢坂剛

  • 増島拓哉『闇夜の底で踊れ』(集英社)
  • 結城真一郎『名もなき星の哀歌』(新潮社)
  • 佐川光晴『駒音高く』(実業之日本社)

 当時十九歳だった増島拓哉が、極道小説『闇夜の底で踊れ』で、小説すばる新人賞を受賞した。のっけから、ベテランの選考委員をうならせた、ともっぱらの評判だ。

 やくざ上がりで、パチンコ狂いの伊達は、ソープ嬢詩織と恋仲。必要な金を稼ぐために、暴力団の手先を務めている。三十半ばの伊達と、二十代後半の恋人詩織との絡みが、高校生と中学生のデートそのままで、場違いにういういしく、ほほえましい。その一方で、暴力団幹部の山本など、極道たちの巧みな人物造型には、舌を巻かされる。ことに中盤からの、生きのいい大阪弁のやりとりは、新人のわざとも思えぬ馬力がある。令和に向けて、精進を期待する。

 新潮ミステリー大賞の受賞作、『名もなき星の哀歌』の結城真一郎も、まだ二十代後半の若い書き手だ。本作は、ミステリーというより、むしろファンタジー小説だが、奇妙な現実感がある。何よりも、文章がきちんとしていて、読みやすい。

 〈記憶〉を売買するという、突飛なビジネスにたずさわる、二人の若者を中心に物語が展開する。十九世紀のドイツ浪漫派の小説に、自分の〈影〉や〈鏡像〉を、悪魔に売る奇譚(きたん)があるが、本作はそれらよりずっと複雑な構造を持つ。しかも、理論的にきちんと組み立てられており、不思議にばかばかしさがない。幼時の記憶を巡る、ミステリーらしい仕掛けもあり、最後まであきずに読ませる。さすがに、『闇夜の……』の作者より年長らしく、若者を主人公に据えながらも、おとなの小説になっている。活字離れの進む若者の世代から、こうした才能が出て来たことを、すなおに喜びたい。

 一方、『駒音高く』の佐川光晴は、すでにベテランの域にある、五十代前半の作家だ。二〇〇〇年代の初めに、新潮新人賞などを受賞、純文学作家として出発した。その後、坪田譲治文学賞を受賞するなど、少しずつ作風を広げてきた。本作は、昨今注目の将棋をテーマにした、書き下ろしの短編集だ。純文学出身らしからぬ、けれんのない読みやすい文章で、この転進は読者にとっても作者自身にとっても、よい結果を生んだといえよう。主人公は、将棋少年であったり、将棋会館の清掃員であったり、将棋担当記者であったりで、将棋を知る人でなくても、十分に楽しめる。中でも棋士の卵の、デートからプロポーズまでを描いた「光速の寄せ」は、ほのぼのとした好編だ。=朝日新聞2019年4月14日掲載