新元号「令和」が発表されました。
月曜日の午前十一時半からの会見ということもあり、その瞬間を、自宅以外の場所で、複数の人たちと迎えた方々も多いのではないかと思います。
私は韓国で、韓国人の出版社の方二名、日本人の出版社の方一名、そして私を加えた計四名で、酢豚などの中華料理を食べながら、その瞬間を迎えました。
どのような意味合いを持つのか、漢字からの印象、音からの印象、そもそも発音は自分の読み方で合っているのか、などと、おそらく日本にいたら、これほど真剣に考えていなかっただろうと思えるほど、日本人の一人として、新元号に向き合えたような気がします。
また、こういう節目となる出来事は、今後幾度となく思い返す機会があるはずですが、それが信頼できる人たちとの楽しい食事の場というのも、幸せなことだと思います。
韓国訪問は二度目でした。
既刊の舞台化と、新刊のサイン会のためですが、日韓関係の報道を見る度に、大丈夫かな、と不安が込み上げていました。
日本でもそうなのですが、私のサイン会に、ほとんどの場合、警備員はいません。書店や出版社の方々のご配慮と、読者の方々の善意で成り立っています。私を嫌いな人は、その気になれば、石を投げたり、目の前で暴言を吐くこともできます。しかし、十年間、そのようなことは一度もありませんでした。
そして、この度のサイン会も、そんな心配をしてしまったことを申し訳なく、かつ、恥ずかしく思うほどに、温かい読者の方々が大勢集まってくださいました。遠方から来てくれた方、前回のサイン本を持ってきてくれた方、日本語で手紙を書いてくれた方、落款を作ってくれた方、翌日の舞台も見に来てくれた方。
平成二〇年に『告白』を刊行し、十年間駆け抜けてきた締め括(くく)りに、素晴らしいひとときをいただけたことを感謝せずにはいられません。=朝日新聞2019年4月17日掲載
編集部一押し!
- インタビュー 恩田陸さん「spring」 バレエの魅力、丸ごと言葉で表現 朝日新聞文化部
-
- 朝宮運河のホラーワールド渉猟 黒木あるじさん「春のたましい」インタビュー 祀られなくなった神は“ぐれる”かもしれない 朝宮運河
-
- 杉江松恋「日出る処のニューヒット」 諷刺の名手・柚木麻子が「あいにくあんたのためじゃない」で問うたもの(第13回) 杉江松恋
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。 清繭子
- インタビュー 「親ガチャの哲学」戸谷洋志さんインタビュー 生まれる環境は選べない。では、どう乗り越える? 篠原諄也
- BLことはじめ BL担当書店員が青田買い!「期待のニューカマー2023」 井上將利
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社