外国にいてたどたどしい英語でなんとか説明しようとしているとき、子供がしゃべってるみたいに聞こえてるかな、と思うことがある。回答はたくさん思い浮かぶのに、口から出るのは、ごく簡単な単語だけだ。
日本語でも、わたしは関西弁以外の人と話すとき、特に仕事の場では共通語になってしまって、思ったことが全然言えてへん、とギャップに歯がゆくなる。
意味としては同じでも、ニュアンスを伝えられず、自分の口から出たその微妙に違う言葉に引っ張られて、ますます気持ちからは逸(そ)れていってしまう(特に、怒りを伝えるのは共通語では難しい)。大阪弁を話しているときとは、人格も変わるような気がする。
「自分の内側にある言葉と、外に出す言葉が一致してる人ってどのくらいいるんやろう」と以前SNSに書いた。そのときたまたま芸能人が酔って悪態をつく騒ぎがあったこともあって、本音と建て前、裏表、みたいにとらえた反応も多かったのだけど、そうではない。
たとえば、会話の中で抗議したいことや納得いかないことがあったときに、それをストレートに言いたくても、口から出てくる言葉はなんだかやんわりした愛想笑い混じりのものになってしまうというのはよくある。そこでの立場上もあるけど、なんで自分はこんな中途半端なもの言いになってしまうのかなあ、と悔しさが残る。
逆に、もっと穏やかに言おうとしたのにけんか腰になってしまう、ということもあるだろう。その人の声の高低でも響きは変わる。真剣に言ってもへらへらしてると怒られて困る、という友人もいた。
もやもやした感情や明確に言葉で表せないことを声にして外に出すとき、長年にわたって培われた話し方や癖みたいなもの、身体は、思ったより影響する。言いたいことと言えないこと、言ってしまったことと聞こえたことの間で、わたしたちは話している。=朝日新聞2019年5月1日掲載
編集部一押し!
- インタビュー 「尾上右近 華麗なる花道」インタビュー カレーと歌舞伎、懐が深いところが似ている 中村さやか
-
- インタビュー 鈴木純さんの写真絵本「シロツメクサはともだち」 あなたにはどう見える?身近な植物、五感を使って目を向けてみて 加治佐志津
-
- コラム 三浦しをんさんエッセー集「しんがりで寝ています」 可笑しくも愛しい「日常」伝える 好書好日編集部
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。 清繭子
- 朝宮運河のホラーワールド渉猟 黒木あるじさん「春のたましい」インタビュー 祀られなくなった神は“ぐれる”かもしれない 朝宮運河
- インタビュー 「親ガチャの哲学」戸谷洋志さんインタビュー 生まれる環境は選べない。では、どう乗り越える? 篠原諄也
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社