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「天皇はいかに受け継がれたか」書評 存続への対応 歴史的に分析

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2019年05月04日
天皇はいかに受け継がれたか 天皇の身体と皇位継承 著者:歴史学研究会 出版社:績文堂出版 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784881161340
発売⽇: 2019/02/22
サイズ: 21cm/312,13p

天皇はいかに受け継がれたか 天皇の身体と皇位継承 [編]歴史学研究会[責任編集]加藤陽子

 平成から令和に移る前後、天皇関係の書が相次いで刊行された。本書もそのひとつだが、22人の研究者による論文集で、内容は密度が高い。責任編集の加藤陽子氏によると、天皇が自らの地位存続のため政治・社会の変化にどう対応してきたかを動態的に分析し、その要因を明かすのが刊行の意図だという。
 平成28(2016)年8月の平成の天皇による生前退位という意思表示を、古代、中世、近世、近代の譲位や皇位継承と比較する視点で論じている。
 中世を書く新田一郎氏は、南北朝の対立が皇位争いと絡むという。公家たちの「家」存立の思惑と、武家たちの守護により北朝への統一が果たされる。皇統は「直系継承」される「家」に収束したという。そのうえで新田氏は、「天皇家」と「天皇制」の存続は同じではないだろうと指摘し、「歴史」に囚われないために、歴史学が必要とされるかもしれないと示唆する。
 近世を論じた藤田覚氏は、後陽成天皇から明治天皇まで16代の皇位継承を表で示す。短命の天皇が多いこと、皇子・皇女の夭折、新宮家の創設が一つだけだったことなどを引きだす。中世にはいなかった女性天皇が2人登場したのも、こうした事情だったという。
 一方で、譲位が政治的に利用されることがあり、後水尾天皇は6回、孝明天皇は3回、譲位の意思を明らかにした。幕府への強い抗議のためだ。孝明天皇の1回目の譲位表明は、安政5(1858)年の日米修好通商条約調印に怒ってのものであった。
 戦後天皇制は河西秀哉氏が論じる。昭和34(1959)年の皇太子の結婚と、「ミッチー・ブーム」の状況を、週刊誌の報道を用いて分析する。昭和天皇の退位論が、戦争責任論とは別に、祝賀の中で持ち出されたことに注目している。
 河西氏ら40代の研究者の天皇制の捉え方は、「政治」から距離を置いている。その視点が新鮮だ。
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 かとう・ようこ 1960年生まれ。東京大教授(日本近代史)。著書に『昭和天皇と戦争の世紀』『戦争まで』など。