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たしろちさとさんの絵本「5ひきのすてきなねずみ」シリーズ 小さい生き物の世界にお邪魔します

文:根津香菜子、写真:佐々木孝憲

――4年間の会社勤めを経て絵本作家を志した、たしろちさとさん。「くろ」「ぐれ」「ちゃたろう」「ちびすけ」「しろこ」の個性豊かなネズミが主人公の「5ひきのすてきなねずみ」シリーズは、フランス語やドイツ語のほか、アフリカの言語などにも翻訳出版され、各国の子供たちに読まれている。たしろさんは、幼いころから「小さな生き物の世界」を想像するのが好きだったそうで、本作を制作するにあたり、自身も段々とネズミの気持ちになったと言う。

 私の子供時代を一言でいうと「夢見る夢子ちゃん」だったんです。いつも色々なことを空想して「壁の奥には小人の世界がある」と思い込んでいたこともありました。目には見えないけど、何か小さな生きものが壁の奥でコソコソ動いているんじゃないかって考えると楽しくて(笑)。自分では気がついてないけど「何かがいる」って考えるとドキドキしてくるんです。そのころから「小さい生きものの世界を描きたいな」という気持ちがありました。

 例えば、いつも自分が立っている場所から見える景色と、同じ場所からネズミが見える景色って全然違うじゃないですか。あらゆるものが大きく見える彼らには、きっと私たちが見えないものも見えていると思うんです。うちの近所にもネズミはいると思いますが、同じ街に暮らしていても、視点が変わると見える世界が全く違うところが面白いなと思い、ネズミたちを本作の主人公にしました。

――本シリーズは現在までに3作を刊行しており、中でも2011年に日本絵本賞を受賞した2作目の『ひっこしだいさくせん』は、5匹が住んでいた隣の家でネコを飼い始めたため、新しい住みかを探すというストーリー。大通りの隅っこや下水道の中などを探し回るものの、ぴったりの場所が中々見つからない。「それならば自分たちで作ってしまおう」と、ゴミ置き場で見つけたガラクタを建材に、それぞれがアイディアを出し合って、新しい家づくりに取りかかる。

 この家の構造をリアルに描くため、私も工作用のボードを切り張りして小さな家の模型を作りました。「こんな感じかな」と想像しながら作っていると、私もネズミの目線になってきて、色々な方向から眺めて描きました。イスをひっくり返して屋根にしたり、マグカップに雨水を溜めてお風呂にしたり……。この家には5匹の生活の知恵が詰まっているんです。

 私がこの家で一番好きな場所は、ビー玉の窓があるお昼寝部屋です。この場面を描いたときはボール紙に穴をあけて、そこにビー玉を入れて光がどう見えるのかを試しました。光を通すとビー玉の色がきれいに反射して、とてもキレイだったんです。こんな部屋でお昼寝したいなぁと思いながら描きました。

「ひっこしだいさくせん」(ほるぷ出版)より
「ひっこしだいさくせん」(ほるぷ出版)より

――ネズミにとって天敵であるはずのネコも、ラストは意外な関係になる。そんな結末にしたのは、たしろさん自身が大の“生き物好き”だからだ。

 虫や鳥、生き物なら何でも好きで、生き物の姿形そのものに魅力を感じるんです。特に昔からカバが大好きで、小さいころ動物園に連れていってもらったときも、家族から「なぜこの子は飽きもせずにカバをずっと見ているんだろう」と思ったらしいです。一番好きな絵本も、中谷千代子さんの『かばくん』(岸田衿子作・福音館書店)という作品です。こんなにすてきなカバはいないですよ! 読むとすぐ動物園に会いに行きたくなっちゃうくらい魅力的に描かれているんです。いつか私も、絵本を読んで実際に見に行きたくなるような動物を描けるようになれたらいいなと思っています。

「ひっこしだいさくせん」(ほるぷ出版)より
「ひっこしだいさくせん」(ほるぷ出版)より

――本シリーズで共通しているのは、5匹が力を合わせて何かを成し遂げるということ。「5匹寄れば文殊の知恵」で、一匹ではできないことも「みんなで協力すればすごいことができるんだ」ということを伝えたかったと、たしろさんは言う。今後、この5匹にどんな“すてきな経験”をさせたいか尋ねた。

 そのうち、こんなことを描きたいというものが出てくるかもしれませんが、今のところは5匹の自由にさせようと思っています。ネズミたちの世界は私の想像の中で出来上がっているので、それを見守っているんですよ。

 この作品を描くときは「5匹のいる世界にお邪魔する」という感覚です。私は絵の具と筆を持って遊びに行き、そこで見てきたことを描いているという感じなんですよ。この子たちはきっと今もどこかで力を合わせて、何か楽しいことをしているに違いないと思っています。