「すべては救済のために」「国境の医療者」書評 弱い命を救う 医は今も仁術
ISBN: 9784751529355
発売⽇: 2019/04/08
サイズ: 20cm/295p
ISBN: 9784787719027
発売⽇: 2019/04/02
サイズ: 19cm/355p
すべては救済のために デニ・ムクウェゲ自伝 [著]デニ・ムクウェゲ、ベッティル・オーケルンド/国境の医療者 [編]メータオ・クリニック支援の会[写真]渋谷敦志
今回取り上げるのは、二組の医療行為者に関する本であり、まずひとつがノーベル平和賞を受賞したばかりのコンゴ人医師デニ・ムクウェゲの自伝的な一冊。
彼がコンゴ内紛の中でいかに暴力と対峙し、命を狙われながらすべての患者に開かれた医療を提供し続けてきたか、そして現在も性暴力がいかにあくどく住民を蹂躙し、家族を引き裂いてしまうかの克明な記録は読んでいて胸が痛い。と同時に不屈の医師デニ・ムクウェゲがいてくれることの輝きは、悲惨な状況の中で一点まぶしい。
そして日本の私たちがいつでも世界情勢に暗いことを、この本で詳述されるコンゴの歴史が教えてくれるだろう。知ることはそれだけでも力である。
さて、もうひとつの本はミャンマーとの国境にあるタイのメソットで30年、難民や移民に無償で医療を提供し続けている「メータオ・クリニック」の記録。
この支援の会には数多くの日本人医師や看護師が参加しており、ユニークなことに本書は彼女らが自分の滞在した年代ごとに書き記す、それぞれ質の高いエッセイで構成されている。
主にミャンマーからタイ側に移動してくる患者たちに、資金も乏しい中でどうよりよい医療を施すか。そこにボランティアたちのシンシア院長への尊敬、また患者と看護師の互いの尊敬が力となって作動するありさまには、読んでいて強く心が動かされる。
これを評している私自身、数年「国境なき医師団」を世界各地で取材して本にもしているのだが、海外には確実に「メータオ・クリニック」の人々やムクウェゲ医師のような医療従事者が存在し、困難の中で人道支援を行っている。
日本国内でそれを「偽善」のように扱うことがあるのは、世界側から見ると不毛な錯誤に過ぎない。彼らなしでは実際に多くの弱い命が消えてしまうのだ。
世界において、医は今も仁術なのである。
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Denis Mukwege 医師、Berthild Akerlund ジャーナリスト▽支援の会 2008年に日本で設立、しぶや・あつし 写真家。