少女たちの神話。と書くと、どこか陳腐な宣伝コピーのようだが、一読して率直にそんな感想が思い浮かんだ。学校や家庭などのありふれた日常を舞台に少女たちを描いた短編集だが、まるで神話や昔話のように幻想的で、そっけなく残酷で、象徴的な物語が収められている。その完成度の高さに驚かされた。どれも商業出版以外の場で発表された作品をまとめたもので、これが著者初の単行本となる。
描かれているのは、友人や親など身近な人間関係の中で引き起こされる、少女たちの葛藤や違和感など。生々しい現実の困難さの中で、もがき苦しむ主人公の自意識は、いつの間にか非現実との境界を越えてゆく。透明感のある絵柄で描き出される幻想的な世界の中で、美醜は表裏一体となり、清濁は混ざり合い、善意と悪意が入り交じって、読む者に突きつけられる。絵とことばもよく響き合い、想像力を強くかきたてられ、収録されている12編どれもが心に残った。
少女の自意識の世界を、徹底的に追い込んで描いているという意味では、これはまさしく「少女まんが」なのかもしれないが、むしろジャンルを越えて広く読まれてほしい一冊だ。=朝日新聞2019年6月1日掲載
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