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受賞作は親戚の子 湊かなえ

 長編ミステリの新人賞である江戸川乱歩賞、その選考会の前日に、このエッセーを書いています。
 選考委員は5名、日本推理作家協会理事長以外の委員の任期は4年で、私は今回で最後となります。最終候補作品は4、5本です。

 多数の有名作家が輩出した賞であるため、一年目は、とにかく厳しく採点し、選考会にのぞみました。しかし、他の選考委員と意見を交わす中で、欠点をあげつらう減点法ではなく、キラリと光るものがどれだけあるかの加点法の方が、おもしろい作品を選ぶことができるのではないかと思いました。

 僅差(きんさ)の点数をつけた状態で選考会にのぞみ、意見を聞いて一位を決めるのではなく、自分は必ずこれを推す! という作品を一つ決めてから挑もう、とも思いました。
 私は応募作を応募番号順ではなく、梗概(こうがい)の前半を読み、興味を持ったものから読むようにしています。すると、ある共通点が見えてきました。最後に読む作品=一番興味が湧かなかったテーマの作品を、一番おもしろく感じるのです。考えてみれば簡単なことで、興味があるテーマは、同テーマの優れた先行作品をたくさん読んでいるため、どうしてもそれらと比べてしまうのです。

 興味の低かったテーマの作品を新鮮な気持ちで読み、これしかないだろう、と選考会に挑んだところ、私しかその作品を推していないということもありました。
 選考会の場では「なるほど」の連続です。それでも、もっと粘ればよかった、と後悔した回もあります。私が責任を持ってこの作品を世に出すんだ! という覚悟が足りなかったのではないか、と。

 明日、推す作品は決めています。全力で戦ってこようと思います。もしかすると、別の作品が受賞するかもしれません。それでも、議論を尽くして選ばれた作品は、自著が我が子であるならば、親戚の子のような気持ちで、心から応援したいと思えるはずです。=朝日新聞2019年6月12日掲載