庶民と御曹司のギャップだらけの幼なじみカップル(井上將利)
6月はジューンブライド。なんてよく言いますが、ギリシャ神話や古代ヨーロッパの言い伝えが起源だそう。一方の日本は梅雨でジメジメして過ごし辛い訳ですが、そんな時は家に引き籠って幸せなBLを堪能しましょう!
今回皆さんにご紹介するのは、山本小鉄子さんの「マッドシンデレラ」(大洋図書、全5巻)。
庶民的な家庭に育った良太と有名財閥の帝人家次男で跡取り息子の朔一(サク)が本作の主人公。良太は父親がリストラされて進学の危機に晒されるなど色々大変な家庭環境、対して大豪邸に住むお隣さんのサクは絵にかいたような“お坊ちゃま”。家は隣でもギャップだらけの幼なじみ2人のシンデレラストーリーが始まります。
中学卒業を控えたある日、良太が何気なく聞いた「サクって好きな奴いんの?」という問いに対し、「俺が好きなのは良太だから」と答えたサク。唖然とする良太はそのままプロポーズまでされてしまうのですが、不思議と動揺しつつも親友の言葉を受け入れるのでした。
しかし、その後サクは留学でアメリカへ渡り、良太も高校卒業後は学生寮の雇われ管理人として働く日々を過ごします。そしてプロポーズから三年半が経ち、ずっと想い人を待ち続けた良太のもとにサクが帰ってきて……。
財閥の跡継ぎとして帰国したサクは、外見こそ大人びたけれど、ずっと我慢してきた良太への思いが溢れて暴走気味。一方の良太は、サクを支える婚約者として急激に変化する生活に振り回されていきます。
前置きが長すぎましたが、実はここからが本作のメインパート。再会した2人の愛と成長を堪能して頂きたいのであえて多くは語りませんが、とにかくしっかり者の良太が素敵なんです!
暴走気味のサクを飴と鞭で見事にコントロールする名捕手さながらのリードをしたかと思えば、時おり見せる乙女な一面が“受け”の立ち位置を際立たせるんです。僕の語彙力で言うと「ヤバい」しか出てこないのが悔しいですが、絶対「ヤバい惚れる!」となるはず(笑)。
そんなラブラブな2人を5巻かけて楽しめるのが何よりも素晴らしいところ。一歩引いて2人を眺めるも良し、自分に置き換えて楽しむも良しです! さらに、途中で登場するサクのお兄ちゃんや隠れイケメンのメガネ君などなど、話が進むにつれて登場人物たちが繋がりあうのは長編作品ならではの見どころ。
2人の幸せを見守るうちに、幸せな気持ちにさせてくれる本作。イッキに読破してみてはいかがでしょうかー?
仕事も結婚も大事なのはプレゼン力!(キヅイタラ・フダンシー)
6月といえばジューンブライド。芸能人の電撃結婚のニュースなど世間でも話題ですね♪ 北欧神話に登場する、結婚を象徴する女神ユノが6月を守護していることから、6月に結婚すると幸せになれるのだとか(諸説あります)! 今回は“結婚”をテーマに、こちらの作品を紹介させていただきます。
せいかさん「課長、結婚しましょう!!」(徳間書店)。
妻に先立たれ、娘の智恵ちゃんと暮らす青木課長の趣味は、もともと妻が得意だったお菓子作り。でも思春期の智恵ちゃんのダイエット宣言で、たくさん作っても食べてくれる人がいないという悲しいことに……。そこで会社で配ってみたら、思わぬ人が釣れちゃいました(笑)。それが、本社から出向してきているエリートサラリーマン、部下の水野。顔の怖さと同僚との距離の取り方も相まって社内では少し浮いた存在です。そんな彼が、青木課長のお菓子にドはまりして、課長の家でお菓子作りを一緒にすることに。楽しそうに作る青木課長の姿を見た水野が、おもむろに課長の手を取り放ったひと言は「課長 結婚してください」!? 唐突にも思える告白ですが、なんだかこの気持ち、共感しちゃうんです。本人にとってはさりげない行動でも、「え……結婚して?」って思うことありませんか(笑)。
はじめは水野の一方的な気持ちでスタートした2人の関係ですが、コワモテ水野は実はなかなかの営業マンで、智恵ちゃんを味方につけつつ、プレゼン力で青木課長をじわじわと絆していきます。そして智恵ちゃんの一人暮らしをきっかけに同居することになった2人の辿り着く先は……?
せいかさんの作品らしく、コメディ要素もあってクスっとする場面もありながら、人が人のことを好きになっていく過程が丁寧に描かれています。作品の中で実際に2人が結婚するわけではないのですが、「結婚しましょう」と思える人って特別ですよね。男とか女とか関係なく、好きを超えた何かがあって、ずっと一緒にいたい、支え合いたいという気持ちを互いに持てるようになることの素敵さを感じます♪
智恵ちゃんはじめ、周りの登場人物も恋路を邪魔するような嫌な人はひとりもいなくて、ほっこりしながら2人を見守ることができますよ! ただ、恋に没頭するだけで済まないのがリーマンBLのキモ。仕事や家族のことで葛藤しながらも幸せを探していく過程や、初めて男同士で体験することの戸惑いなど、いろいろツボに刺さりまくりでした……(笑)。
さらに電子版限定で収録されている番外編「続いて行く、それぞれの幸せ」がまたとても良い! ゆったりと、でもしっかりと2人で歩んでいく人生が紡がれていっているのが垣間見えてじんわりきました。
おじさん好きでなくとも万人にオススメしたい作品です。是非お手に取ってみてください~!
Web発のBLファンタジー時代小説(貴腐人)
6月はジェーンブライド。今月のテーマは「ハッピーBLウエディング!」ということで、飯田実樹さんの小説「空に響くは竜の歌声 紅蓮をまとう竜王」「空に響くは竜の歌声 竜王を継ぐ御子」(ともにリブレ)を紹介します。
没落の一途をたどる家を懸命に守る守屋龍聖(りゅうせい)は、自分を呼ぶ声に導かれ、蔵で見つけた指輪をはめた途端、鏡の中へ吸い込まれていってしまいます。
飛ばされた先は、竜が空を舞うエルマーン王国。シーフォンという種族が治める異世界の国です。龍聖は守屋家の先祖が交わした契約により、竜の聖人「リューセー」として竜王の妃となるべく、エルマーン王国に飛ばされたとのこと。急激な近代化により守屋家の伝承がだんだんと受け継がれなくなり、龍聖は事情をまったく知らぬまま異世界での生活が始まります。
元の世界へは戻れないうえに同じ男性との結婚を強いられ、危ないからと部屋からも出してもらえず、会えるのは側近のシュレイだけ。気が滅入る中、初めて対面した夫となる竜王・フェイワンは、見た目は10歳くらいの少年。龍聖はほっとしますが、フェイワンは「見かけは子供、頭脳は大人」を地でいってます。そんなフェイワンの見かけにも事情があります。
リューセーである龍聖から竜王の命の糧「魂精」が与えられ、会うたびに成長していくフェイワン。そしてどんどん龍聖に惹かれるフェイワンは「エサを与えるように、魂精を与えるためだけに来ないでくれ……少しでも、オレの事を好きになって欲しい」と告白。この告白によって龍聖はフェイワンときちんと向き合う事を決意します。
フェイワンと龍聖の気持ちが近づく中、龍聖が現れなければ数年のうちに命を落としていたであろうフェイワンに取って代わろうとしていた勢力が龍聖を亡き者にしようと策略し、エルマーンの闇の部分が蠢きだします。
この攻防戦が前半の山場でしょうか。犯人は読んでいるうちになんとなく見えてきますが、その人物のために周りがどんどん不幸になっていくのは辛かったです。でもその後の彼らの生き方が報われたのが幸いでした。こういう救いがあるのが、飯田さんの作品が好きな所以なんです。
後半は国内の争いも落ち着き、やっと結婚式! そこからは国の立て直しと子作りに励む2人。らぶらぶいちゃいちゃ炸裂です。
「男に抱かれるなんて~」と言っていた龍聖はどこへ行ったのやら。そして「守屋家のために子供は産まない。エルマーンの……シーフォンの繁栄のためにも子供は産まない。フェイワンを愛しているから、フェイワンの子供だから産むんだ」と言う龍聖。
これが「エサを与えるように~」というフェイワンの告白に対する龍聖の答えかなって勝手に思いました。
最後に次代への引き継ぎがあるのですが、それがこの作品がBLではあるけれどファンタジー時代小説なんだと強く感じるところです。
この作品が書かれたのは十数年前。BLでもファンタジーが売れないとされていた時代に「異世界トリップ」「異世界での結婚」「男性妊娠」「人外」ect……、ご自身のWebサイトで掲載されていたのですから先見の明が素晴らしすぎます。
シリーズも7冊刊行されており、過去未来と描かれ、今作では詳しく触れられていなかった事などが書かれています。
さまざまな竜王とリューセーが貴方をお待ちしております。