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「昭和よ、」書評 「自問自答哲学」実践する随想

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2019年06月22日
昭和よ、 著者:山藤章二 出版社:岩波書店 ジャンル:エッセイ

ISBN: 9784000613330
発売⽇: 2019/04/11
サイズ: 20cm/169p

昭和よ、 [著]山藤章二

 著者は昭和12年生まれ、昭和により性格、生活設計が作られた。人生の持ち時間も少なくなり、思うのは自らが輝いていた時代への追想である。
 老いの筆はあちこちに飛ぶが、寝つかれない深夜、幸運に恵まれた人生だったなと思う。「私の性格」が「時代」に合ったとの述懐、他者と比較しての一喜一憂などせず、「人間すべからく性愚説」とも説く。
 こうしたヤマフジ流の人生観やヤマフジ節が、本書の読みどころだ。表現者を目指し、自由業として世に出るまでの雌伏の時、吉行淳之介との出会いなど、乱の時代を生きる幸運があった。「臍まがりで偏屈で少数派を好む」との性格は、文明批評家にも通じる。
 昭和20年代以降、やがて経済大国とはいうものの「アメリカの子分として立国へ成功」という現実、IT分野のスマホ依存症への不安、昭和に育った老人には将来は不気味だ。著者の説く「自問自答哲学」を実践して時世を見守るか。