「炭坑の絵師―山本作兵衛」書評 コップ酒の匂い立ちのぼる
評者: 立野純二
/ 朝⽇新聞掲載:2016年09月25日
炭坑の絵師 山本作兵衛
著者:宮田 昭
出版社:書肆侃侃房
ジャンル:芸術・アート
ISBN: 9784863852273
発売⽇: 2016/07/01
サイズ: 19cm/383p
炭坑の絵師―山本作兵衛 [著]宮田昭
国内最大の産炭地だった筑豊は、炭坑(ヤマ)の文化のふるさとである。
過酷な労働と圧制の中にあっても、人情が紡ぐ無数の哀楽の物語があった。
山本作兵衛は、自らヤマの男として生涯を生き、65歳から主に明治・大正の炭坑を墨と水彩で描いた。
本書は、筑豊炭田の盛衰と共に歩んだ人生をたどりつつ、数々の記録画が語る風土と伝承をひもとく。
男女が地底で働いた採炭場。喧嘩(けんか)にはやる男衆に、三味線で踊る女衆。日本の近代化を支えた往時の炭坑街の活気がよみがえる。
その作品群が日本初の世界記憶遺産に登録されたのは2011年。官製資料にはない生の産業史が、1人の労働者の手で後世に遺(のこ)された価値が高く評された。
名もなき人びとの生きた証しを記録に残す。作兵衛の魂は、生前の取材記者だった著者の本懐でもある。
全編に響くゴットン節には郷愁と哀感がこもり、2人があおるコップ酒の匂いまでが立ちのぼるようだ。