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苅田澄子さんの絵本「いかりのギョーザ」 ユーモアでマイナスの感情を笑顔に変える

文:根津香菜子、写真:斉藤順子

――食パンの特性を生かした忍術を扱う『しょくパンにんじゃ』(絵・モカ子/PHP研究所)や、「お米のちびっこ」たちが成長する過程を描いた『おこめようちえん』(絵・陣崎草子/講談社)など、食べ物が主人公のユニークな話を数多く手掛ける苅田澄子さん。以前は出版社に勤務し、営業と児童書の編集を経て、絵本作家になった。

 出版社に入社して最初に配属されたのが営業部でした。でも、私は編集者になりたかったので、営業事務の仕事をしながら、夜は児童文学の専門学校に通っていたんです。そこには面白い作品を書くクラスメイトがたくさんいて「私も書いてみたいな」と刺激を受けたんです。その学校で、当時講師をされていたのが、児童文学作家の小沢正先生でした。私は「小沢語録」と呼んでいるんですが(笑)、その時小沢先生に教えていただいたことや言葉の数々を書き留めたノートがあって、今でも作品を書くときは読み返しています。

外出時は持ち歩くことが多いという「アイディア帳」

――少しずつお話を書き始めた頃に応募した「小さな童話大賞」(毎日新聞社主催)で入賞したのが、デビュー作『いかりのギョーザ』(絵・大島妙子/佼成出版社)だ。ある日、こぶたのブブコが、道で見つけたフライパンを使ってギョーザを作る。フライパンにギョーザを並べ、いざ、火をつけようとすると、突然フライパンが「火はいらん」としゃべり出す。そして「プンプン プリプリ」と言いながらフライパンの下から炎を出し、美味しいギョーザを焼き上げる。

 『いかりのギョーザ』は、専門学校に通っていた時に作ったお話なんです。当時は今よりも長かったのですが、絵本として出版するにあたり「もっと短くしてください」と言われ、どんどん削っていきました。担当編集の方から「“プンプン プリプリ”は面白いので、もっと入れてください」という要望があったんですが、私自身は「そんなに繰り返したら、子供たちは飽きるんじゃないかな?」と思っていたんです。でも、実際に読み聞かせをしてみると、一番盛り上がるのはこの場面でした。子供はこういう擬音が好きだから、声に出して言いたくなるリズムなんですよね。

――フライパンが火をおこすために必要なのが、作る人の「怒り」のパワーだ。そのマイナスのパワーを使って焼いたギョーザを食べると、ブブコとけんかしていたブウタや、カラスにリボンを盗まれたミミコたちからは怒りが消え、ごきげんな笑顔になっていく。喜怒哀楽など様々な感情がある中で、「怒り」を本作の題材にした理由を聞いた。

 多分、一番インパクトがあると思ったのかな。当初は、タイトルに「怒り」という言葉が入っているので、怖くて誰も手に取らないんじゃないかと心配していたんですが、担当の方が「怒りでギョーザを焼けるって面白いです」と言ってくださり、その一言に背中を押してもらいました。

 ギョーザを焼いている時の音って、割と大きいじゃないですか。水を入れた時の「ジュワー」という音や、パチパチするところが怒っているように感じたんです。読者からの感想も「私は家でしょっちゅう怒っているので、いくらでもギョーザが焼けます」っていうお母さんの声が多いんです。私も怒ったりイライラしたりすることはよくありますが、美味しいものを食べている時って機嫌が良くなったり、笑顔になりますよね。笑いでパワーも出ると思うけど、怒らない人ってあんまりいないと思うし、怒りが美味しいものに変わったら世の中平和になるだろうな、という気持ちで書きました。

――お話を書くきっかけになったのは、小学1年生の担任の先生との出会いだ。

 担任の先生が、私の書いた作文を熱心に読んでくれたんです。その先生の感想が聞きたくて、一生懸命書いていました。その先生に出会わなかったら、お話を書こうと思わなかったと思います。今自分で見返してみても、この頃に描いたお話の方が面白いんですよ。たぶん何かを真似して書いていたとは思うんですけど、好きなことや楽しいと思ったことを、今よりも自由に書いていたからでしょうか。ぜひ皆さんも、小学生のときに書いた作文などがまだ残っていたら、見直してみてください。中学くらいになると妙にロマンチックになってくるので、恥ずかしいんですが(笑)。自分の素になるものが見つかるかもしれません。

苅田さんが小学生の頃に書いた「お話ノート」には、担任の先生からの感想や、大きな花丸がいくつも書かれていた

――取材時に持ってきてもらったのは、頭に浮かんだことをメモする「アイディア帳」のほかに、小学1~2年生の時に先生に見てもらっていた、お話を書いたノートが1冊。ページをめくると「みかんはみんなの人気者」や「洋服を食べるタンスちゃん」など、ユーモラスなお話が、かわいらしいイラストと共にびっしりと書かれていた。この頃から、苅田さんの作品で一貫しているのはユーモアだ。そのセンスはどこからくるのだろうか。

 私は落ち込みやすくて、ついマイナスな考え方をしてしまいます。本や映画でも、悲しい話や辛い話は同じ気持ちになってしまうので見ることが出来ないんですよ。なので、自分が作る作品は楽しいものを書きたいんです。

 あとは、生きるために必要なユーモアだったのかもしれません。私は中学生の時、関東から関西に転校したんですが、言葉が違うから友達がなかなかできなかったんです。よく空を見上げては「あの雲が私を乗せて、前の学校の友達のところへ連れていってくれるかもしれない」と想像したり、本の世界に入り込んだりして、一人で楽しんでいたんです。現実逃避だと思われるかもしれませんが、今考えると、そういうことが私を救ってくれたのかもしれません。

――食べ物が主人公のお話が多い苅田さんだが、自身は食べ物にも料理をすることにもあまり興味がないそう。

 食べ物以外の話も書いているんですが、出版社の方にお見せするとなぜか食べ物の話が通ることが多いんですよ。よく小沢先生が「その物の気持ちになってみて、何が好きか嫌いかを考えなさい」とおっしゃっていましたが、その言葉がずっと私の中にあるんです。食べ物が主人公のストーリーをつくるときは、その食べ物の気持ちになって「うれしいと思うことや悲しいと思うことは何か?」と考えてみると、食べ物は美味しく食べられることが幸せなんじゃないかなって思うんです。この絵本では、怒りというマイナスのエネルギーが「美味しいギョーザ」というプラスのものに変わって、食べた人たちが笑顔になれるということを、読者の方に感じてもらえたら嬉しいです。