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BLラバーの書店員が選ぶ「水もしたたるイイ男たち!ビーチでBL」3選

“奥行き”を感じる映画のような恋物語(井上將利)

 「そろそろ梅雨明けしてよね」と毎朝念じているんですが、なかなか梅雨前線さんに届かない今日この頃です。
 せめて夏らしく爽やかな作品をお届けするしかない!ということで選びました、今月の一冊。
表紙の海が眩しい、紀伊カンナさんの「海辺のエトランゼ」(「エトランゼ」シリーズ、祥伝社)です!

 沖縄の離島を舞台に、高校生の実央(みお)と小説家の卵の駿(しゅん)の出会いから始まる本作。実央は両親と死別し天涯孤独の身、駿は婚約者との挙式当日にゲイであることを家族に打ち明け破談にした過去を持ち、家族と絶縁状態。
 形は違えど過去に傷を抱える2人。ある日、下心ではあったけれど真正面から実央に近づいた駿は、「かわいそう」と気安く慰められる自分自身に無力さを感じていた実央に受け入れられ、心を通わせていきます。

 しかし、駿はゲイであることで他人から拒絶された苦しみや、「普通でいたい」と切望しながらも自分を異端な存在へ追いやってきたことをトラウマに感じていました。それは想いを寄せる実央に対しても例外ではなく、実央から“普通”を奪ってしまうことを恐れて距離を置いてしまいます。

©紀伊カンナ/祥伝社on BLUE comics
©紀伊カンナ/祥伝社on BLUE comics

 そこには綺麗事だけでは越えられない重く厚い壁が確かに存在していて、読者として2人をどう捉えるのが正しいのか分からなくなってしまうことも。けれども実央は「男を好きになる」ということに真剣に向き合い、自分自身そして駿から目を逸らさずに答えを出すのでした。

 「俺ね、女の子が好きだよ。それでも駿のこと好きになったよ。」

 何が正解かはきっと誰にも分からないけれど、この実央の言葉は確かな一つの答えとなって駿と読者である僕の心にとても印象深く刻まれました。

 この作品を読んだとき、僕は「映画みたいだ」と感じたのを覚えています。精彩に描かれた一つ一つの場面が映像のように繋がっていて枠外にいるキャラクターの存在まで感じられる“奥行き”のような不思議な感覚があるんです。本作は「春風のエトランゼ」へと続き、物語が進むにつれ、その不思議な魅力もさらに増していきます。今度は駿の実家が舞台となり、気の休まらない展開が続きますが、2人の赤裸々な感情が読む手をどんどん加速させ、途中では止められないはず!
 家族の在り方を改めて考えさせられる本作。ここで伝えきれない魅力も満載ですので是非、ご自身で体感してみて下さい!

燃え上がる男たちの色気に見入ってしまうこと間違いなし!(キヅイタラ・フダンシー)

 ジメジメな季節がまだ続きそうですが、「BLことはじめ」は夏を先取り♪ 今回は「水もしたたるイイ男」をテーマにこちらの作品を紹介させていただきます!

 ウノハナさん「海と二人の塩分濃度」(リブレ)

 海のそばにある小さな居酒屋を舞台にした、大学生・隆太と店長・尚希の物語です。高2の夏に友人の紹介で尚希の店でバイトすることになった隆太。多分初めて会ったときから、隆太は尚希に恋をしてしまったんでしょう。ただ、尚希は葉菜(はな)という女性と、結婚はしていないけど夫婦同然な関係で店を営んでいたので、隆太は不毛な恋心を募らせながら夏限定のバイトを続けていました。

 大学生になって片思いを続けながらも、1年は留学のためにバイトができなかった隆太。いい加減この気持ちを諦めようと2年ぶりに戻ってみると、尚希は1人になっていたのでした。寂しそうな表情を見せる尚希に、我慢できず告白をしてしまう隆太。抱きしめる腕の強さが語る本気の思いと、「俺は葉菜さんから尚さんを奪いたいだけだよ」と男の顔を見せる隆太にぐっときてしまった尚希は……。

©ウノハナ/リブレ
©ウノハナ/リブレ

 ピュアに1人の男を想い続けてきた10歳も年下の青年のまっすぐな気持ちを受けて、葛藤しながらも忘れかけていた熱を持ってしまう尚希。お互いの気持ちに向き合うシーンは、“燃え上がる”ってまさにこういう感じだよねというくらい、2人ともすごい色気を放っていて見入ってしまいます。その間、尚希の飼い猫のちくわちゃんが部屋の外に追い出されて怒っているのがちょっと不憫でクスっとします(最後の方には空気を読めるようになっているのもプチ注目ポイント!笑)。

 季節が静かに移り変わるとともに、2人の関係も深くなっていくのを、じっくりと読むことができる作品だと思います。隆太は若いからこその勢いも持ちつつ、時折ものすごく大人びたことを言うので、35歳のオジサン(私)も「カッケー!」と感心すると同時にドキドキしちゃいました。あとサーフィンをしているときの水に濡れた姿もセクシーなんです!笑 尚希も軽いように見えて、誰にもすがらず1人で生きてきた結果である今の自分と、隆太の別の未来の可能性を天秤に掛けて思い悩みながらも、けじめをつけようとする姿が男前! 年齢や境遇なんて関係ない、真剣にお互いのことを想いあえる、魅力的なカップルだな~と感じました。潮風の香りが漂ってきそうな雰囲気の中で繰り広げられる大人なラブストーリー、是非読んでみてください♪

眩しくも爽やかなキスシーンに大照れ(貴腐人)

 今月は、お題の「水もしたたるイイ男たち!ビーチでBL」のはじけっぷりからすこ~しイメージが離れますが、古矢 渚さんの「君は夏のなか」(一迅社)を取り上げます(ビーチでウフフアハハの追いかけっこはありませんが、ピチピチイケメン男子高生と海は出てきます!)。

 映画が好き、という共通の趣味から仲良くなった佐伯千晴と戸田渉。学校帰りに映画を観て感想を述べ合うのが楽しい2人。渉が会話の流れで千晴が告白されているところを目撃したことを告げると、千晴から好きだと告白されてしまいます。

 戸惑う渉ですが、嫌悪感はなく、その後も友人としてつるむ2人。でもどんどん千晴のことが気になる渉。もだもだ感が青春って感じでにやにやしちゃいます。
 もだもだしていますが、夏休みに好きな映画の聖地巡礼に出かけ、数回かけていろんな場所をめぐり、夏の思い出づくり! 若いっていいわね~、なんてのんきなことを考えて読んでいたら、本当に渉との思い出づくりだった!
 引っ越しで2学期からの転校を機に渉のことを諦めるための聖地巡礼だったのです。渉を見つめる千晴の切ない切ない表情はそういう事だったのね。

 千晴が本心を隠していることに感づいていた渉ですが、千晴が転校して電話番号も変え、自分との関係を断ち切るとは思っていなかったので、さすがに落ち込む、落ち込む。千晴は「覚悟」を決めていたけど、「覚悟」すらもさせてもらえなかった渉。怒りや戸惑いを抱えながらも表面上は普通に時が流れていきます。

 最後の電話から1カ月後、千晴から手紙が届き、そこで明かされた千晴の想いと過去の話。実は2人は子供のころ出逢っていて、渉の言葉に救われていた千晴。高校で再会してからは子供のころと変わらない渉のまっすぐさにどんどん惹かれ、「特別な存在」となったものの、千晴はそれすら思い出のひとつに変えようとしていました。

 納得のいかない渉は消印から当たりを付け、千晴の元へ駆けつけます。そこは2人が聖地巡礼のラストに予定していた、港町の海岸にある岩場。見事、見つけ出して感動の再会かと思いきや、「歯ァ 食いしばれ」と、千晴の頬に拳骨が炸裂! よぉっ! 渉、男前!

 怒りを爆発させる男前・渉ですが、「二度と 会えないかと思った……」と千晴の肩で泣く姿は可愛い。

©古矢渚/一迅社2017
©古矢渚/一迅社2017

 お互いがお互いを好きだと認識し合って触れるだけのキス。腐った大人には眩しくも爽やかなキスシーンなので、反対に照れちゃいました。
 最後の海岸を歩く2人の姿はまさしく青春映画のようで、清々しい読後です。

 今月末には新刊「君と夏のなか」も発売されますので、千晴と渉が気になった方はどうぞお手に取ってみてください。