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のはなはるかさんの絵本「109ひきのどうぶつマラソン」 あなたにはあなただけの輝けることがある

文・写真:根津香菜子

――絵本『109ひきのどうぶつマラソン』(ひさかたチャイルド)の画面いっぱいに描かれた、たくさんのどうぶつたち。小さいものだと、1cmにも満たない。デビュー作『たくさんの たくさんの たくさんの ひつじ』(同)でも、そのタイトル通り、100匹以上の小さな羊がどのページにもびっしりと描かれ、よく見るとどれも微妙に形や表情が違う。かわいらしい動物たちを緻密な筆致で描くのが、絵本作家・のはなはるかさん。学生時代、一度は絵を描くことから離れたものの、東京藝術大学の院生の時に開いた個展が、絵本作家になるきっかけとなった。

 小学生の頃から絵本が好きで、将来の夢は絵本作家だったんです。だけど、十代の頃はどこか自分の絵に自信がもちきれなくて、藝大では絵以外でも美術ができる「先端芸術表現科」を専攻しました。でも、藝大の卒業制作ってすごくお金がかかるんですよ。自分で制作費を稼ぐためにアルバイトを掛け持ちしていましたが、時間がもったいなくて……。そこで、絵を描いて売ることができればと考えて「やるしかない!」と再び絵に取り組み始めたんです。その後、ある程度の作品が溜まったところで個展を開いたら、たまたま見に来ていた編集の方に「絵本を描いてみませんか?」と声をかけていただいたんです。それが絵本作家になるきっかけでした。

――その個展でのはなさんの才能を見出し、デビューから見守ってきた、ひさかたチャイルドの佐藤力さんは「絵の印象が圧倒的だった」と言う。展示していたのは、手のひらより一回り大きいくらいの紙にクラゲやクリオネなど海の生物をぎっしり描いた細密画。細かい絵を描き始めたのは、のはなさんが美術の世界で生き残る術だった。

 もう一度絵を描き始めた中で今のようなスタイルになったのは、私の「生存戦略」なんです。藝大でものづくりを続けているけれど、さらにその中でみんなが切磋琢磨するので、自分が今、どのレベルにいるか知ることがすごく怖かったですね。自分が美術の世界で生き残るために、他の人よりも勝てることを見つけなれければと考えた時に、私は細かいものを描くことが得意だったので「自分の武器を最大限にいかして戦うんだ」という意思を込めて描いていました。

『109ひきのどうぶつマラソン』(ひさかたチャイルド)より
『109ひきのどうぶつマラソン』(ひさかたチャイルド)より

――のはなさんの3作目となる本作は、109匹の動物たちが世界を一周するマラソン大会に出場する物語。カメやチーター、パンダなどの代表一匹が1位を目指し、海やジャングルの中を走っていく。

 たくさんの動物たちに、一度に同じことをさせることによって、それぞれの個性が分かりやすくなるようにしたいと考えました。それが「走る」ことだったんです。この作品はマラソンの「実況中継絵本」にしようと思ったので、まずは箱根駅伝を見ることから始めました。往路と復路の実況中継でアナウンサーの人がレース中にどういう言葉を使っているのか、順番が入れ替わった時に何と表現しているのかをノートに書き出したんです。あんなに真剣に箱根駅伝を見たのは初めてでした(笑)。

――ページをめくるごとに様々なコースでレースが展開する。泳ぎの得意なペンギンは海の中をスイスイと進んだり、サルは木のつるを伝ってジャングルのコースで先頭に躍り出たり――。

 誰でも得意なことと、ちょっと苦手なことってありますよね。苦手なことがあったとしても、あなたにはあなただけの輝けることがある。自分では気づいていないかもしれないけれど魅力的だよ、ということを伝えたかったんです。

 私は方向音痴だったり数字に弱かったりと、できないことは極端にできないんです。でも「細かい絵を描いてください」と言われたら、無我夢中で描くことができるんです。たくさんのことが出来るタイプじゃないのですが、周りの人が「それでもいいよ」と言ってくれていたように思います。そんな風に私もこの作品で「あなたにはこんな素敵なところがあるよ」ということをうまく伝えられたらと思いました。

着色は「コピック」というカラーマーカーを使っている。どの動物に、どの色をどの順番で塗ったか忘れないように、コピックの色番号を一匹ずつメモしてある
着色は「コピック」というカラーマーカーを使っている。どの動物に、どの色をどの順番で塗ったか忘れないように、コピックの色番号を一匹ずつメモしてある

――絵本の後ろ見返しには、マラソン大会に参加した動物たちが、レース中にどんなことが一番だったのか書いてある。一番かっこいいポーズを決めたコアラや、いつも一番笑顔だったキョウリュウなど、本作を読み終えた後にそれぞれの「一番」の理由を探して、繰り返し読む子供が多いそう。

 本作のテーマは、一言で言ってしまうと「多様性」と呼ばれるものです。レースで1位になることがこの話のメインではなく「みんながんばったから、それぞれの素敵なところが見えたんだよ」ということを伝えるお話にしたかったんです。

 どの動物をどんな「一番」にするかは、最初から決めていたわけではありません。絵を描いていくうちにそれぞれの個性が分かってきて、結果的に一番の理由が自分の中で見えたんです。私の絵本は基本的に動物が登場していますが、実は人の話をしているんです。例えば、洞窟の中を走るシーンで書いた「こわがらずに いっぽずつ まえへ すすみます。あきらめずに はしりつづければ、ひかりがみえる!」という言葉は、人生において、という意味にかけたメッセージになっています。

それぞれの「一番」の理由が、ストーリーの中で間違っていないかをチェックする表
それぞれの「一番」の理由が、ストーリーの中で間違っていないかをチェックする表

――動物を描いた作品が続いているのはなさん。今後の作品のテーマを尋ねた。

 今までは主に多様性をテーマにお話を書いてきましたが、これからはもう少し違うことを伝えていきたいと思っています。私の絵本には必ずテーマがあるので、伝えたいことがある間は作品を作り続けると思います。