寺山修司は地獄に憑(つ)かれた人だった。詩に歌に散文に、地獄地獄と書きつけている。
川に逆らひ咲く曼珠沙華(まんじゅしゃげ)赤ければせつに地獄へ行きたし今日も
その寺山にも触れながら、日本仏教美術史の専門家加須屋(かすや)誠氏が著したのが『地獄めぐり』である。カラー多数の地獄絵が随所に収められ、真夏に開けば納涼の役も務めてくれるかもしれない。
著者によれば、地獄とは暴力とエロスの世界で、「地獄絵を真剣に観(み)ることは、無意識にある自分自身の本性に目を向けることである」。地下8階建てとされる地獄の各階の責め苦を丹念に解説し、三途(さんず)の川や賽(さい)の河原、閻魔(えんま)王の来歴を教えてくれる。
斎藤茂吉、太宰治から西行、清少納言まで動員し、著者は地獄に向けられた「まなざし」を読み解こうとしている。『往生要集』や『日本霊異記』はもちろんのこと、言及される文学の原典を手に取ってみるのもお盆休みの一興か。衣笠貞之助や神代辰巳らによる「地獄」ゆかりの映画も紹介している。(福田宏樹)=朝日新聞2019年8月17日掲載
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