寺山修司は地獄に憑(つ)かれた人だった。詩に歌に散文に、地獄地獄と書きつけている。
川に逆らひ咲く曼珠沙華(まんじゅしゃげ)赤ければせつに地獄へ行きたし今日も
その寺山にも触れながら、日本仏教美術史の専門家加須屋(かすや)誠氏が著したのが『地獄めぐり』である。カラー多数の地獄絵が随所に収められ、真夏に開けば納涼の役も務めてくれるかもしれない。
著者によれば、地獄とは暴力とエロスの世界で、「地獄絵を真剣に観(み)ることは、無意識にある自分自身の本性に目を向けることである」。地下8階建てとされる地獄の各階の責め苦を丹念に解説し、三途(さんず)の川や賽(さい)の河原、閻魔(えんま)王の来歴を教えてくれる。
斎藤茂吉、太宰治から西行、清少納言まで動員し、著者は地獄に向けられた「まなざし」を読み解こうとしている。『往生要集』や『日本霊異記』はもちろんのこと、言及される文学の原典を手に取ってみるのもお盆休みの一興か。衣笠貞之助や神代辰巳らによる「地獄」ゆかりの映画も紹介している。(福田宏樹)=朝日新聞2019年8月17日掲載
編集部一押し!
- インタビュー 「尾上右近 華麗なる花道」インタビュー カレーと歌舞伎、懐が深いところが似ている 中村さやか
-
- 中江有里の「開け!本の扉。ときどき野球も」 生きるために、変化を恐れない。迷いが消えた福岡伸一「生物と無生物のあいだ」 中江有里の「開け!野球の扉」 #13 中江有里
-
- コラム 三浦しをんさんエッセー集「しんがりで寝ています」 可笑しくも愛しい「日常」伝える 好書好日編集部
- 大好きだった 「七帝柔道記Ⅱ」の執筆で増田俊也さんが助けられた「タッチ」と「SLAM DUNK」 増田俊也
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。 清繭子
- インタビュー 鈴木純さんの写真絵本「シロツメクサはともだち」 あなたにはどう見える?身近な植物、五感を使って目を向けてみて 加治佐志津
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社