登場人物が実在の本について語る“書評マンガ”とでも呼ぶべきジャンルがある。その主人公たちは基本的に読書家だ。しかし、本作の主人公の場合はちょっと違う。
転勤で引っ越した日の夜、先住者が残していった文庫本を暇つぶしに読み始める。「小説なんて読むのは何年ぶりだっただろう」という非読書家の彼が、そこから読書にハマるのだ。その運命の一冊は、安部公房『砂の女』。シュールなストーリーもさることながら、「妙にそそる」ヒロインが彼を虜(とりこ)にしたのだった。
以降、川端康成『眠れる美女』、三島由紀夫『潮騒』、ツルゲーネフ『はつ恋』、S・キング『ミザリー』など内外の名作を読(よ)み漁(あさ)る。共通点は印象的な女性が登場すること。彼女らが読後の夢にも登場し、もうひとつの物語を描き出す。その妄想力は、フェティッシュな男女関係描写に長(た)けた作者ならでは。主人公が居酒屋で出会った本好きの女との関係も絶妙だ。
「これは……エロ小説じゃないか!!」といった主人公のピュアな感想、身もフタもないツッコミに苦笑する一方、太宰治『女生徒』をツイッターになぞらえるなど鋭い分析も。権威や世評に囚(とら)われない偏愛的読書ガイドである。=朝日新聞2019年8月17日掲載
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