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「昆虫食と文明」書評 倫理にまで踏み込む多様な論点

評者: 黒沢大陸 / 朝⽇新聞掲載:2019年09月07日
昆虫食と文明 昆虫の新たな役割を考える 著者:デイビッド・ウォルトナー=テーブズ 出版社:築地書館 ジャンル:食・料理

ISBN: 9784806715856
発売⽇: 2019/06/28
サイズ: 20cm/366p

昆虫食と文明 昆虫の新たな役割を考える [著]デイビッド・ウォルトナー=テーブズ

 スシは周縁の食べ物が主流になった好例。欧米人が一世代で生の魚を食べるようになったのだから、昆虫も同じではないか?
 本書は、昆虫の食べ方や環境負荷が少ないたんぱく源としての効用を説くばかりではない。地球でどのように昆虫が繁栄してきたかや、人類や農業と昆虫とのかかわり、昆虫食の倫理まで踏み込んでいく。どんな殺し方が人道的なのか、商業的に成功して天然物が人気を集めたら深刻な環境破壊を起こさないか。
 こんな指摘もある。おそらくコーヒーの粉に昆虫の断片が含まれ、規制機関が食品中の昆虫は美観の問題で「見えないレベルの昆虫の断片が食品に含まれることを許容している」。そういえば、ちりめんじゃこに混じる小さな生き物を食べるし、昆虫を餌にする川魚を丸ごと食べることもある。何か吹っ切れそうだ。
 著者が示す多様な論点から、昆虫を考える新しい視点が見つかるだろう。