――本作では二人の子を持つ母親を演じられましたが、出演が決まった時のお気持ちを教えてください。
働きながら子供を育てる母親役というところが自分とリンクしていたので、お話を頂いた時はびっくりしました。私の子供は今2歳なんですけど、作中では10年という時が経過して、子供たちも10年分成長しているのですが、そこまで大きな子供と接するのは未知の世界だったので、母親としての感情を把握するのが難しかったです。でも、私自身も日々子育てをしているタイミングでこの役が巡ってきたことは嬉しかったですね。
――由美の夫の一真は、わがままで子供っぽくて「こんな人の妻は大変だなぁ」と思ったところもしばしばあったのですが(笑)。そんな一真を、時にはうまくあしらって家族のバランスをとっているのが由美なんですよね。高校生になった娘の美緒に「出会って、結婚したのがお父さんでラッキー?」と聞かれた由美が返したセリフがステキでした! 森さんが演じた実感としてはいかがでしたか?
私もあのセリフが大好きなんです! それをさらっと娘に言えるところがまたいいんですよね。一真さんは、やんちゃでちょっと変わりものなので、大変な旦那さんだなとは思うけど、言葉の節々に愛嬌があるし「俺が家族を守っていくんだ!」という姿勢が見えるからこそ、由美もずっと一緒にいるのかなと演じていて思いました。由美は大学生の時に妊娠したのですが、結婚も出産もスパッと決断できたのは、やっぱり一真さんだったからだと思います。由美は若くして母親になり子供を育てていく上で、見守る立場が増えていったと思うんです。家族に対して色々と口出しするだけでなく「見守る」というところをこの役を演じる上で大事にしました。
――本作のテーマである「出会い」について、どう思いますか?
ちょっとした言葉や出会いによって、誰かの人生が一歩進んだり、時には大きく変わったりすることがあるんだと、この作品で感じました。一人ひとりに色々な出会いがある中で、そこからどんな人が、自分とどうつながっていくか分からないところが面白いなと思います。最近は電車に乗っていても「この人は今からどこに向かって誰と会うんだろう?」とか、街で通り過ぎた人にも「これからどんな人と出会うんだろう?」と、思わず考えてしまいます(笑)。
出会いと言えば、私はインスタグラムをやっているのですが、そこで私が発するちょっとした言葉でもすごく大事に受け取って見てくださる方がいたり、普段はメイクモデルのお仕事が多いんですけど、その誌面を見て「メイクに興味を持ちました」と言ってくれる人がいたり。自分が発信したことが知らず知らずのうちに誰かに影響していたり、出会いにつながっていたりするんだと実感しています。
――本作は、10年にわたる佐藤と紗季の恋愛を軸に進む物語ですが、10年という年月を振り返ってみて、森さんにはどんな出会いがありましたか?
私は大学を卒業する頃、まだ進路に迷っていたのですが、雑誌という世界に出会い、そこで夢中になってモデルの仕事をしている自分に気づいたんです。カメラマンさんや編集者、ヘアメイクさんなど、たくさんの人たちの力によって一冊の雑誌を作り上げている現場を共有できることが楽しくて「この世界でやっていこう」と決めました。それがちょうど10年前の二十歳ぐらいの時でしたね。それから、雑誌の表紙を担当させていただいたり、こうして演技の仕事もいただいたりしているので、今振り返って「あの時、この道を選択して良かった」と心から思っています。
――以前、森さんのブログで「森見登美彦さんにハマっている」という内容の記事を拝見したのですが、特に好きな作品はなんでしょうか?
『恋文の技術』という小説です。手紙のやり取りだけで進んでいくんですけど、独特の言葉づかいや掛け合いが面白くて引き込まれました。今は子供がいるので、小説より絵本を読むことが多いです。
最近お気に入りなのが『おふくさん』という絵本です。「おまえたちを怖がらせてやる!」とやってきた鬼を笑わせようと「おふくさん」たちは色々なことを試すんですが「笑顔はみんなをつなげるんだよ」というメッセージが込められているんです。子供に読み聞かせをしていると、にらめっこの「あっぷっぷ」の時は「ぷぅ」っていう顔をしたり、「あはは」というセリフでは同じように笑ったりして、親子で楽しんでいます。こうやって笑いあったことも含めて、10年後も子供の記憶に残る一冊であってほしいなと思います。