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福部明浩さん・川嶋ななえさんの絵本「いちにちおもちゃ」 広告のボツ企画がベストセラーに 

文:澤田聡子、写真: 斉藤順子

広告の企画で作った『いちにちおもちゃ』

——2009年に出版した、シリーズ第一作『いちにちおもちゃ』は、初めての絵本作品ですね。広告業が本業のお2人が、どういうきっかけでこの絵本を作ることになったのでしょうか。

『いちにちおもちゃ』(PHP研究所)より

福部明浩(以下、福部):『いちにちおもちゃ』の原型は、ある広告の企画で作った子ども向けの冊子だったんですよ。僕と川嶋さんとアートディレクターの大野耕平君のチームで3パターン作ってね。そのうちの1つが『いちにちおもちゃ』だったんです。

川嶋ななえ(以下、川嶋):でも、残念ながら3つとも採用されなかったんですよね。

福部:実はそのとき『たべてあげる』(絵・おおのこうへい/教育画劇)も一緒に提案していたんです。あと1つが思い出せないな。

川嶋:あ、『ダラダラくん』です! ダラダラしている怠けものの子どもの妖怪の話。その三本立てです。3つのうち『ダラダラくん』だけ、日の目を見ていませんね(笑)。

福部:せっかく面白いものができたのにもったいない、と思って社内のツテをたどって出版社を紹介してもらったんです。3作持ち込んだ中で、「ぜひ、絵本にしましょう!」と編集さんが声をかけてくださったのが、『いちにちおもちゃ』でした。

——「いちにち、おもちゃになってみる」という発想が面白いんですが、どういうところから思いつかれたんでしょう?

福部:当時、5歳だった長男がいつも部屋を散らかしっぱなしだったことから考えたのが「おもちゃをちゃんと片付ける」というテーマ。そこから「おもちゃの気持ちになってみたら、子どももお片付けしてくれるかも」「おもちゃに実際変身してみたら……意外に大変かもしれないね!」という話になりました。広告って「この商品のいいところを伝えたい!」というところから、「逆算」して作っていくんですよね。絵本作りも同じ。決まったゴールがあって、その山を登るためにはどうすればいいか、という「登り方」を考える訓練はずっとやってきたことなんで、僕らとしては「いつものやり方」で作った感じです。

カスタネットになってあごカタカタ! 衝撃的シーン

——親子でページをめくるたびに爆笑するほど面白いんですけど、おもちゃに変身した後の絵が衝撃的というか……男の子の造形にもちょっと怖さを感じさせるようなところがありますね。

川嶋:怖いですかね? 私はかわいいと思っているんですが……。うーん、目が怖いんでしょうか。眉毛がなくて、どこ見ているか分からない。瞳に輝きがないのもあるかもしれない(笑)。

福部:川嶋さんは怖がらせようとは思っていない(笑)。カスタネットに変身するシーンは、確かに衝撃的だよね。SNSでも話題になっていました。担当編集さんにも「絵本って、ちょっと怖い部分があったり、不思議なところがあるほうが子どもの心に残る」って教えてもらいました。

『いちにちおもちゃ』(PHP研究所)より

——主人公の男の子が、坊ちゃん刈りに半ズボン、ハイソックスという昭和なファッションというところも面白いです。モデルはいるんですか?

川嶋:「とりあえず男の子を描かなきゃ」となったときに、ささっと描いてみた男の子がたまたまこの子だったんです。洋服は「ドラえもん」ののび太くんをイメージしています。

福部:それはね、ネットでも「完全に一致」って検証されていました。靴まで一緒なんですよ。こんなぴちっとした半ズボンの子、今はなかなかいないですからね(笑)。

川嶋:でも眉毛がないからか、「いちにち つみき!」で積み木になって持ち上げているときの表情がすごく大変だったんですよ。ここは何回も描き直しました。

——ほかに気に入っているシーンはありますか?

川嶋:絵として気に入っているのは「いちにち けんだま!」のシーンですね。今見ても……使い込まれた木のおもちゃのツヤとか質感がうまく描けているなと(笑)。このページを一番初めに描いたんですけど、それまで画材を何にするか決まっていなかったんですよ。

福部:それ、初めて聞いたな。このシーンから描いたんだ。

川嶋:そう。このシーンから描き始めて、画材を何にするか決めようって。私、実は絵の具が苦手で、最初は色鉛筆とかコピックで試していたんです。もう色鉛筆で事なきを得ようと思っていたら、大野さんから「ちゃんとやろうか!」って言われまして(笑)。美大を受験したときの絵の具を引っ張り出して描いてみたら、思ったよりも上手にできたじゃん!って。そういう意味で思い出深いシーンですね。

福部:よく見ると確かにうまい! けん玉の糸に陰影が付いてたり、美大生の感じが出てるね(笑)。

チームでアイデアをどんどん出しながら作り上げる

——絵本に出てくるおもちゃがけん玉だったり、ピーヒャラ笛やコマなど……懐かしのおもちゃが多いと思うんですけど、これはチームの皆さんで話し合いながら決めたんでしょうか。

川嶋:「いちにちシリーズ」の会議では、ラフを持ち寄ってみんなで案を出します。話し合ううちに、「これは当確だね」と決まっていく感じですね。

福部:広告の人はみんな、共同作業がすごく得意なんです。「これはどう?」「だったらこういうのは?」って、どんどん自分の意見を乗せていって、アイデア出し大会みたいになるんですよ。「もともと誰のアイデアか」みたいなものに頓着しないんですね。その分、誰か一人の「作家性」というのはないかもしれない。

川嶋:確かに、誰がこのアイデアを最初に言ったかな、っていうのは忘れちゃいますね。

福部:『いちにちおもちゃ』の場合は、未就学児が一度は見たことあるだろうというおもちゃで構成しています。けん玉は、もし自分がなってみたら痛いだろうなっていう想像から入れました。でも、これは1作目だから、お尻への刺さり方がマイルドだね(笑)。シリーズ8作目の『いちにちじごく』の「針山地獄」のシーンはさらに痛そうですごかったもんね! チームで作ってますけど、やっぱり一番大変なのは絵を担当している川嶋さんなんですよ。

川嶋:ありがとうございます。ブラッシュアップのためなら、何度でも描き直します(笑)。

1作目『いちにちおもちゃ』(右)と8作目『いちにちじごく』(左)。「これが川嶋さんの画力の進化だね……!」と福部さん

乗り物、おばけ、地獄にUMA……年1作ペースで刊行

——『いちにちおもちゃ』から始まり、『いちにちぶんぼうぐ』『いちにちのりもの』『いちにちおばけ』『いちにちどうぶつ』『いちにちむかしばなし』『いちにちこんちゅう』『いちにちじごく』……2018年の最新作『いちにちなぞのいきもの』まで、この10年で9作もシリーズを発表されていますね。毎年刊行とハイペースですが、テーマはどのように選ばれているんですか。

川嶋:年に1回刊行は、ハイペースなんですね。広告だともっと制作スパンが短いから、そういう感覚がありませんでした。

福部:文房具、乗り物くらいまでは「子どもの好きなものは何だろう」って考えながら、決めていたんですよね。ブレイクスルーは、4作目の「おばけ」だね。おばけでそれこそ、バーンと「化けた」んです。

川嶋:『いちにちおばけ』からは、取り上げるテーマや構成も自由度が広がった気がします。

——私は『いちにちおばけ』からたまに出てくるイケメンタッチの絵が大好きなんです。川嶋さんがノリノリで描いてらっしゃるのが伝わってきます。

川嶋:ありがとうございます。私、少女マンガが大好きだから。こういう得意なジャンルは描き直しもほとんどないんです。

福部:『いちにちおばけ』だと、のっぺらぼうのところね。僕が「これは新しいかも」と思ったのは、『いちにちむかしばなし』のピノキオだね。「ウソはいけないぜ…」っていう。

川嶋:あのキメポーズはGACKTの手を参考にしています(笑)。

『いちにちむかしばなし』(PHP研究所)より

子どもたちの記憶に残る絵本を作りたい

——『いちにちじごく』は地獄、『いちにちなぞのいきもの』はUMAと、最新2作のテーマはコワ面白い感じですね。

福部:この2作は担当編集さんが「次は地獄どうですか……」とか「謎の生きものどうでしょう!」って提案してくださったんですよ。特に『いちにちじごく』が大人気で、「子どもはちょっと怖かったり、不思議なものが好き」っていうことが感覚的に分かってきましたね。

川嶋:ミュージシャンのROLLYさんがギター片手に絵本を読み聞かせる会がありまして、『いちにちじごく』を取り上げてくださったんですよ。エレキギターを弾きながら、「い〜ち〜に〜ち ひのししじごく〜!」ギュイーン!って。それまでゲラゲラ笑ってた子どもたち全員「シーーーーーン」ですよ、もう(笑)。

福部:(爆笑)この絵本と併せて、パパやママが「鬼のお面」を用意しておくと、すんごく効果ありますよ! 

——お話うかがっていると、チームで和気藹々と楽しく作っていらっしゃる様子が伝わってきました。最後に、お二人が感じる絵本作りの醍醐味について教えてください。

福部:広告と比べると、作品がずっと残るっていうのが絵本のいいところですよね。CMだと2週間、長くて半年ですから。ロングセラーの絵本は四半世紀どころか、半世紀読み継がれているものもありますもんね。

川嶋:そう、我々が「生きてた証」ですよ! 大好きだった絵本は、大きくなっても記憶に残りますしね。

福部:広告制作では、僕たちは裏方なんで名前が出ることはないんですけど、絵本は作者の名前がどーんと載っていますから。『いちにちおもちゃ』を出してから10年、コンスタントに絵本を作り続けられて本当にありがたいですね。「ウチの子、『いちにちシリーズ』大好きなんです!」って読者から声をかけられるとすごくうれしい。今、記念すべき10作目を制作しています。

川嶋:最新作は「ついにこのテーマが来たか」という感じで、さらに面白いものになると思います!