「儀礼殺人」をご存じだろうか。呪術的なパワーを得るため、体の一部を儀礼にのっとって切り取る殺人のことをいう。『隠された悲鳴』(ユニティ・ダウ著、三辺律子訳)は、実際にあった事件をもとに、アフリカ南部ボツワナの現職大臣が書いた物語だ。
舞台は世界遺産のオカバンゴ・デルタに近い小さな村。ある日、少女が行方不明になり、村人は儀礼殺人を疑うが、警察は早々に「ライオンに食われた」と捜査を打ち切る。ところが5年後、村に来た若い女性が、血の付いた少女の服を発見したことから、事件の真相が明るみに出る。
人権問題に熱心な著者は、弱い立場の人を犠牲にする「文化的慣行」との対峙(たいじ)を訴える。物語の殺人自体もむごたらしいが、不正、暴力、呪術、恐怖が人々の心を支配し、凶悪な犯罪がいつの間にか闇に葬られていく過程も恐ろしく、結末のむなしさに崩れ落ちた。古い慣習や意識を変えることのなんと難しいことか。そういう意味で、これはアフリカだけの問題でもないのだ。(久田貴志子)=朝日新聞2019年9月21日掲載
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