「儀礼殺人」をご存じだろうか。呪術的なパワーを得るため、体の一部を儀礼にのっとって切り取る殺人のことをいう。『隠された悲鳴』(ユニティ・ダウ著、三辺律子訳)は、実際にあった事件をもとに、アフリカ南部ボツワナの現職大臣が書いた物語だ。
舞台は世界遺産のオカバンゴ・デルタに近い小さな村。ある日、少女が行方不明になり、村人は儀礼殺人を疑うが、警察は早々に「ライオンに食われた」と捜査を打ち切る。ところが5年後、村に来た若い女性が、血の付いた少女の服を発見したことから、事件の真相が明るみに出る。
人権問題に熱心な著者は、弱い立場の人を犠牲にする「文化的慣行」との対峙(たいじ)を訴える。物語の殺人自体もむごたらしいが、不正、暴力、呪術、恐怖が人々の心を支配し、凶悪な犯罪がいつの間にか闇に葬られていく過程も恐ろしく、結末のむなしさに崩れ落ちた。古い慣習や意識を変えることのなんと難しいことか。そういう意味で、これはアフリカだけの問題でもないのだ。(久田貴志子)=朝日新聞2019年9月21日掲載
編集部一押し!
- 新作映画、もっと楽しむ 映画「私にふさわしいホテル」主演・のんさん×原作・柚木麻子さん対談 文学界をのし上がれ!ヘンテコ大作戦 かわむらあみり
-
- 谷原書店 【谷原店長のオススメ】泥ノ田犬彦「君と宇宙を歩くために」 共に生きる、あたたかい世界が広がっていく 谷原章介
-
- ひもとく 2024年ベストセラーを振り返る 昨年と同じ著者・著作が目白押し ライター・武田砂鉄さん 武田砂鉄
- 作家の読書道 金子玲介さんの読んできた本たち 会計士を目指した大学時代、小説の世界に引き留めた人とは(後編) 瀧井朝世
- インタビュー 「ハリー・ポッターと賢者の石」日本語版出版から25 年 翻訳者・松岡佑子さんインタビュー 「ここまで惚れ込んだ作品、他にない」 坂田未希子
- 新作映画、もっと楽しむ アニメ映画「ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い」出演・津田健次郎さん「ウルフの未成熟さが面白い」 根津香菜子
- イベント 「今村翔吾×山崎怜奈の言って聞かせて」公開収録に、「ツミデミック」一穂ミチさんが登場! 現代小説×歴史小説 2人の直木賞作家が見たパンデミックとは PR by 光文社
- インタビュー 寺地はるなさん「雫」インタビュー 中学の同級生4人の30年間を書いて見つけた「大人って自由」 PR by NHK出版
- トピック 【直筆サイン入り】待望のシリーズ第2巻「誰が勇者を殺したか 預言の章」好書好日メルマガ読者5名様にプレゼント PR by KADOKAWA
- 結城真一郎さん「難問の多い料理店」インタビュー ゴーストレストランで探偵業、「ひょっとしたら本当にあるかも」 PR by 集英社
- インタビュー 読みきかせで注意すべき著作権のポイントは? 絵本作家の上野与志さんインタビュー PR by 文字・活字文化推進機構
- インタビュー 崖っぷちボクサーの「狂気の挑戦」を切り取った9カ月 「一八〇秒の熱量」山本草介さん×米澤重隆さん対談 PR by 双葉社