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田中友佳子さんの絵本「こんたのおつかい」 「ダメ」の先にはどんな世界が広がっている?

文:根津香菜子、写真:北原千恵美

――子供にとって、一人で「おつかい」することは、大きな不安と特別な高揚感があるもの。田中友佳子さんのデビュー作『こんたのおつかい』(徳間書店、2004年)は、お母さんから「おあげ」を買ってきてほしいと頼まれたキツネの「こんた」が主人公。こんたは頼まれたお使い物を忘れないように「おあげ、おあげ」と言いながら歩いていくが、途中で現れた天狗や妖怪に驚き「おあげ」から「てんぐ」に、そして最後は「おばけ」になってしまう、といった言葉の入れ替わりの面白さを描いている。

 元々は「おつかい」をテーマにしようと思ったわけではないんです。私は当時マラソンが好きで、ある日走っている最中に、ふと「おあげ」と「おばけ」ってなんか似ているな、と頭に浮かんだんですよ。その言葉の変化の面白さを活かそうと思ったのが、本作を描くきっかけになりました。

 以前から日本人であることを意識したようなお話が書きたいなと思っていたので、日本語独特の面白さや、言葉で発した時に子供が遊ぶように絵本を読んでもらえたらと、お話自体も昔話風にして、「油揚げ」という日本ならではの食材も取り入れたんです。「油揚げと言えば」で主人公はキツネになり、その子がおつかいをしたらストーリーが出来上がるな、という感じで自然と発想が出てきました。

「こんたのおつかい」(徳間書店)より

――山の向こうにあるお豆腐屋さんまで進む途中、道が二手に分かれる。いつもお母さんと歩くのは「はなのみち」だが、こんたはお母さんから「とおってはいけません」と言われた「もりのみち」を進んで行く。

 子供に限らず「これはやっちゃダメ!」と言われると興味を持つものですよね。それは自然な感情だと思うし、禁止されたことを破ると、その先にはどんな世界が広がっていくの?という展開にしたかったんです。

 私が小さい頃に住んでいたのは山や林が身近にあるところだったので、一人で小学校から家に帰ってくるだけでも、ちょっとした冒険ができたんです。ある日、わざと竹藪のようなところを通って帰ったんですが、その道を抜けたら、ちょうど胸のところに大きなチョウチョが止まっていたんですよ! まるでチョウチョのイラストが描かれたTシャツみたいになっていて、ビックリした思い出があります。

 そんな風に、いつもの道とは別の道を行ってみると思いがけないことが起こりますよね。今でも山道を歩いていると「あれ、こんなところに道があったっけ?」とか、何かに化かされているようなことや、思いがけない発見があって面白いです。親になった今は、子供がそんなことしたらやっぱり心配してしまいますけど、子供の頃に冒険した後の誇らしい気持ちって大人になっても覚えているものなので、そんなドキドキワクワクした気持ちを描きたいと思いました。

――こんたの表情や体の変化にも注目してほしい。最初はおつかいが楽しみで目がキラキラしていたが、「もりのみち」を進むうちに不安で涙目になったり、突然現れた天狗や妖怪たちに驚いてしっぽの毛先が広がったりと、全身で感情を表している。

 当時の私ができる精一杯の表現として心掛けたことは、その時その時のこんたの感情が、作品を読んだどの子にも分かるようにと、できるだけ大げさな感じに描くことです。特に表情がアップになった時、子供たちにこんたの感情を伝えられないと作品として訴えかけられるものが少ないかなと思うんです。こんたの気持ちになって「驚いたらどんな感じになるかな?」とか、実際のキツネがそうなのかは分からないですが(笑)、驚きを全身で表現するには、どこにどんな動きをつけたり、ということを考えました。

――画面いっぱいに描かれた迫力ある鬼や妖怪たちは、「もりのみち」から突然出てきて「てんぐだぞう!」「おにだぞう!」と言ってこんたを追いかけてくるが、何か悪さをするわけではない。

 小さい頃から水木しげるさんの作品が大好きで、妖怪に興味があったんです。自分で絵本を作るならお化けや妖怪を出てくる話を描いてみたいと思っていました。私は妖怪に「悪者」というイメージがないんですよ。そういう存在がどこかにいるようでいないような世界って面白いし、妖怪たちが自然といるような世界を描けば、子供たちにも少しずつ「見えないもの」への興味が湧くかなと思うんです。

田中さんのアトリエには、妖怪に関する本がたくさん並んでいる

――さらに作中で目を引くのが、香ばしい匂いが漂ってきそうな「おあげ」だ。田中さんはこの「おあげ」を描くために、お豆腐屋さんに取材に行ったのだそう。

 私はそれまで、油揚げにあまり興味がなかったんです。スーパーに行ってもどれが美味しい「おあげ」なのか分からなかったので、お豆腐屋さんに行って、どうやって油揚げができるのかを見せてもらいました。買ってきた油揚げを写真に撮ってじっくり観察して、油の光沢や微妙に焦げている感じも再現してみました。

「こんたのおつかい」(徳間書店)より

――食べ物に限らず、何かの絵を描くときは実際に自分の目で実物を見に行くことが多いと言う田中さん。

 本物を知らないまま描くことがすごく嫌なんです。純粋な心を持った子供が読む絵本を描くのだから、まず自分が本物を見て、知って、それをちゃんと描いてあげたいという姿勢は崩したくないので、出来るだけ取材に行くようにしています。『かっぱのかっぺいとおおきなきゅうり』を描いたときも、それまでは新鮮なキュウリをちゃんと見たことがなかったので、ハウス栽培している農家さんを取材させていただきました。食べ物を描くときは特にしっかりと実物を見て、その後は美味しく頂きます(笑)。

――続刊の『こんた、バスでおつかい』では、タイトル通りこんたが一人でバスに乗り、おじいちゃんとおばあちゃんの家まで「おいなりさん」を届けに行くおつかいだ。今後、こんたにどんな経験をさせてみたいか尋ねた。

 実は今、ちょうど「こんた」の3作目を描いているところなんです。発売日は未定なんですが、5年くらい前に書いて寝かせておいたお話に、もう一度面白いアイディアを取り込んで、今までとは少し趣の違うストーリーになるかなと思っています。次作では、少し成長して「お兄ちゃん」になったこんたを描けたらいいなと思っています。