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ドラマ「ドクターX」生みの親・内山聖子さんの失敗から学ぶ仕事術

文:永井美帆 写真:山田秀隆

――大門未知子は「私、失敗しないので」と言っていますが、失敗しない人なんていると思いますか?

 失敗しても、隠すのがうまかったり、失敗しないことだけを選んでしたりする人はいると思います。1度、「ドクターX」に「私、失敗しないので」と言い放つ男性医師を登場させたことがありました。でも、この医師は失敗しないような安全な手術しかしません。大門未知子は誰もやりたがらない難しい手術にも挑戦するし、ものすごい努力を持って成功させる。私は大門未知子とは違って失敗だらけの人間ですが、迷わずに挑戦する人生を選びます。振り返った時に、「失敗したけど、挑戦してみたらこんなに良いことがあったよ」と言える方がずっと良い。人生が自分だけのものになる気がします。

 と言いながら、最近は「一発賭けてみよう!」という企画がやりにくくなりましたね。もちろん、今でも毎日のように小さな失敗はします。でも、エグゼクティブプロデューサーなんていう肩書がついて、今さら視聴率3%なんかをとるわけにいかないっていうか(笑)。後輩たちに迷惑をかけられないですからね。

――でも、内山さんがこんなにもたくさんの失敗をしてきたというのは意外でした。

 本を書くために、20代、30代の頃に使っていたメモ帳を見返していたんですが、「ああ、私やらかしてるなあ」って我ながら面白くなりました。入社当時にさかのぼると、制作現場を志望していたのに秘書室に配属され、社長秘書として働いていたんです。きちょうめんな性格ではなく、事務仕事に全く向いていない私はコピーはとれない、ファクスも送れない。ジーパンをはいて出社して、先輩から怒られるなど、本当にダメな新人でしたね。

 でも、今になって思うと、秘書室にいた4年間で社会人としてのマナーを覚え、厳しい女性の先輩に「どうしたらかわいがってもらえるか」という術も学びました(笑)。それは制作現場に行ってからもすごく役に立って、芸能界の重鎮と言われるような大女優の方にもかわいがって頂きました。自分が希望した場所でなかったとしても、その仕事から学ぶことが必ずあります。だから、かつての私みたいな状況にいる人も、まずは目の前の仕事に一生懸命になって欲しいですね。

――やりたい仕事を出来ている人の方が少ないかもしれませんね。

 そうですね。そこで腐らずに仕事は仕事として頑張りながら、「これをやりたい!」というエネルギーをため込み、いつでも動ける準備をしておく。私は秘書の仕事をしながら、家ではせっせとドラマの企画書を書いていました。サラリーマンの良い所はお給料をもらいながら、自分のやりたいことを探していけること。逆に、最初から制作現場に配属されていたとしたら、今の私はいなかったんじゃないかな。だって、何も分からないうちに現場に出たって、私のことだからきっとたくさんの失敗をしたはず。そうなった時に寄る辺がないんですよね。でも、私は回り道をしたからこそ、どんな失敗をしても、「せっかく捕まえたチャンスだから」と必死になることが出来ました。

――でも、失敗するとものすごく落ち込みます。

 誰だって落ち込みますよ。怒られるし、周りに迷惑かけるし。それでパニックになり、また別の失敗を引き起こす。失敗は連鎖するんです。でも、それをはね返せるだけのパワーを持った20代、30代の若いうちにたくさん失敗しておくと、結果的に得るものが大きい。人間は失敗から学んで、成長しますからね。「No Pain, No Gain(痛みなくして、得るものなし)」です。そして、失敗した後にどんな行動をとるか、周りの人たちはちゃんと見ています。派手に転んでも、必死に立ち上がろうとしている姿を見せれば、必ず手を差し伸べてくれる人が現れます。ドラマを作る時にも意識することですが、人間は生物学的に困難に立ち向かおうとする人を応援したくなるそうです。失敗した時こそ、最高のスポットライトを浴びる瞬間なんです。あと、若いうちからあまりにうまくいっていると、嫉妬して意地悪する人も出て来ますからね(笑)。

――そもそも、どうして今、仕事についての本を出版したんですか?

 去年11月ごろだったかな、新潮社の方から「仕事術について書きませんか?」というお手紙を頂いたのがスタートです。それまで本を書くなんて想像すらしてなかったし、「私には難しいだろうな」というのが最初の感想。もちろん、仕事ではドラマの企画書を書いたり、脚本を直したり、書く機会は多いけど、ドラマなのでほとんどがフィクションですよね。でも、自分自身のことを書くとなると、当然これまでのことを整理する必要があります。特に私なんて、タイトル通り「失敗ばかり」の人生を送ってきていますから、「振り返るの嫌だな」と(笑)。ただ、テレビ朝日に入社してちょうど30年という節目の年でもあったし、最近は年齢や立場的なこともあり、なかなか新しいことに挑戦できなくなっていたので「これはチャンスかもしれない」と決めました。

――失敗すると心が折れて、なかなか立ち直れない人も多いと思います。そんな時はどうすれば良いですか?

 若いうちは何度折れたって良いんです。そうしているうちに必ず鍛えられ、立ち直り方も身に付いていきます。失敗したからと言って死ぬわけじゃないし、何も恐れることはない。そして、どうしてもつらい時は逃げたって良いんです。私も仕事のストレスで円形脱毛症や顔面まひになったことがありましたが、心が押しつぶされそうになったら、1カ月でも、2カ月でも仕事を休めば良い。「周りに迷惑かけるから……」とか思わず、我慢した結果、倒れてしまうよりマシです。休んでまた戻ってくれば良いんです。だからこそ、若い人たちに言いたい。失敗できるうちにどんどん失敗して下さい。