「ロヒンギャ問題とは何か」「ロヒンギャ難民100万人の衝撃」書評 無国籍で民族と認められぬ人々
ISBN: 9784750348698
発売⽇: 2019/09/10
サイズ: 19cm/333p
ISBN: 9784839603175
発売⽇: 2019/09/02
サイズ: 19cm/525p 図版5枚
ロヒンギャ問題とは何か 難民になれない難民 [編著]日下部尚徳、石川和雅/ロヒンギャ難民100万人の衝撃 [著]中坪央暁
時折、報道でロヒンギャ難民という語にふれる。とはいえ、これがどのような歴史的経緯で存在するかはわからない。そもそもロヒンギャとは、どこに住むどのような人たちなのか。
日下部・石川編著によれば、「ミャンマーのラカイン州に暮らすベンガル系ムスリムが自ら名乗っている呼称」だそうである。19世紀初めに英国の学者が調査し、ロインガと自称する人々の存在を記録したのが最古の史料だという。しかしミャンマー政府は、ロヒンギャを自国民と認めていないため、無国籍であり、難民扱いもされていない。
ロヒンギャの武装グループが軍や警察の施設を襲い、国境警備隊員や警官を殺害する事件が起きた(2017年8月)。ミャンマー国軍の掃討作戦は村々を焼き打ちし、1カ月で6700人を殺害した。百万人以上のロヒンギャがバングラデシュに逃げ込んだという。こうした難民は1970年代から続き、両国間で送還を巡る話し合いが行われている。だがロヒンギャは帰国に不安があり、事態は進展していない。
宗教上の対立も大きい。ロヒンギャは生活も宗教上も保守的で、イスラムの教えが浸透しやすいという。パキスタンは過激派との接点を警戒しているようだ。避難生活の窮屈さや将来への絶望から、テロ組織に参加する若者も出ている。
ロヒンギャの要求は、「ミャンマーでの国籍付与」「ロヒンギャという民族を認める」の2点に絞られる。これまで世界は根本的な解決を怠ってきた。国際機構による舵取りは難しい、との指摘は重い。
ミャンマー国軍の掃討作戦は、入念に練られたロヒンギャ壊滅という側面があったようだ。中坪著はそう明かしているが、ミャンマー政府はロヒンギャを追放することで現実を糊塗しているのかもしれない。アウンサンスーチー国家顧問の言が空虚に響く。
この2冊は、「歴史」を読み解く教科書である。
◇
くさかべ・なおのり 東京外大講師。いしかわ・かずまさ ミャンマー地域研究▽なかつぼ・ひろあき NGO職員