- 『最悪の将軍』 朝井まかて著 集英社文庫 770円
- 『子規の音』 森まゆみ著 新潮文庫 935円
- 『大江戸少女カゲキ団』(1) 中島要著 ハルキ文庫 704円
身の丈に合わなくても、禁じられても、どうしてもやりたいことがある――。そんな情熱を描いた三冊。
(1)生類憐(あわ)れみの令など悪評ばかりが残る五代将軍・徳川綱吉。本書は彼がなりたくもない将軍の座につく場面から始まる。だがどうせやるなら四代家綱の思いを継ぎ、泰平(たいへい)の世を作るため精一杯(せいいっぱい)頑張ろうと決意。しかしそんな綱吉を嘲笑(あざわら)うかのように、政争や災害、赤穂事件など大きな出来事が相次ぐ。民を思い、正しいと信じた道を来たはずなのになぜ伝わらないのか。これまでの綱吉像を一変させる哀切な物語。
(2)正岡子規の三十五年の生涯をつぶさに綴(つづ)った評伝である。「病牀(びょうしょう)六尺」での闘病の印象が強いが、本書を読むと子規が実によく旅をしていたことがわかる。しかも二十一歳の若さで初の喀血(かっけつ)を経験し、肺病と診断されたあとで全国各地を巡っているのだ。頻繁に挟み込まれる子規の句は、まるで旅行記に添えられた写真のようにその情景とその時の思いを、そしてその場の音までも映し出す。短い命を激しく深く強く駆け抜けた子規の姿が浮かぶ。
(3)女はかくあるべしという〈常識〉に反旗を翻す、元気な少女たちの時代小説が開幕した。女は役者になれなかった江戸時代、「男に生まれたかった」少女四人が男装して芝居に挑戦する。つまり江戸版宝塚だ。抑圧された女性の姿を描きつつも、彼女たちの明るさについつい顔がほころぶ。早くも二巻が待ち遠しい。なお、カゲキ団は歌劇でも過激でもない。その正体は本編にて。=朝日新聞2019年11月16日掲載