リーマンショックで皆痛い目にあった
――お二人は不動産業界で十数年働いているそうですね。簡単に自己紹介をお願いします。
全宅ツイのグル(以下、グル):全宅ツイのファウンダーで、都心の不動産の仲介を生業とするブローカーです。40代で、家族にはこの活動については秘密にしてます。
かずお君(以下、かずお):もともと分譲マンションやビルの開発をやるディベロッパーに勤めていました。リーマンショックで派手に散っていった会社のひとつです。その後転職して、今もその周辺の業務をやっています。30代半ばです。
――全宅ツイとしては2015年から活動しているとのことですが、どういう集まりなのでしょう?
かずお:もともとはリーマンショック直後の2009年頃から、ツイッターで不動産の面白いことを呟く人たちと何となくフォローしあっていました。大体皆リーマンショックで会社が潰れたりして、残務処理の仕事ばかりで暇だった。だからツイッターを始めていたんです。その中でもツイートが尖っていて面白い人たちで集まって、リアルで飲み会をするなど交流するようになりました。
グル:リーマンショックで痛い目にあった皆でしたね。その前の2002年から2008年くらいまでは、不動産業界はバブルで恩恵もいっぱい受けてきた。若いうちに大きい仕事ができて、いっぱい給料がもらえた。当時の熱狂を共有しましたね。
――メンバーには地主、大家さん、個人投資家、金融機関関係者などいるそうですね。規模はどれくらいでしょう?
グル:最初は3、4人の集まりで、2年くらいすると飲む人は10人くらいになりました。今では関係者を合わせると100人くらいですね。会員の方だと30〜40人くらいでしょうか。
大の大人が大真面目にやる「喜劇」
――クソ物件オブザイヤーを始めた経緯を教えてください。
かずお:2014年に前身イベント「不動産屋さんが選ぶ次世代に語り継ぎたいプロジェクト100選」をやろうってTwitterで呼びかけたんです。グルが「やりたい」って言うから「じゃやろう」ってなって。主にリーマンショック前後の、次世代が知っておくべきだと思う代表的な不動産プロジェクトが集まりました。
グルの呼びかけで皆さんから集まった100選のツイートを僕がまとめてみたんです。せっかくだからと投票してもらって、チャンピオンを決めたんですよね。それが「クソ物件オブザイヤー」の原型です。
グル:(クソ物件は)自分が担当したらめっちゃ辛い。業界で皆知っている失敗物件だと、ずっと言われますから。「あいつこんな高値で買って失敗しよったで」とか。非常に辛いのを知っているからこそ、自分のじゃないクソ物件はdisりたいっていう。
かずお:失敗から学ぶところが非常にある。なんで失敗したかの事例をいっぱい知っているのは、僕らにとって生き残るために重要なことなんですよね。
――それから毎年続いて、今年は6回目だそうですね。著書ではシェアハウス「かぼちゃの馬車」運営会社が経営破綻し、オーナーに賃料が払えなくなった事件や、東京の高級住宅街・成城にある細長い狭小邸宅などが紹介されていました。色々な案件がありますが、お二人にとってクソ物件の定義って何ですか?
グル:難しいですけどね。やっぱり何て言うんですか、大の大人がお金をかけて真面目にやってる喜劇みたいな。
かずお:喜劇ですよね。ノンフィクションならではのね。これが作りもんじゃないから面白い。
グル:遠くから見たら大金のかかったコントなんですよ。でもやっぱり人間の欲があって、クソ物件になってしまう。
――限られた空間でより多くの利益をあげたい。だから狭い間取りになってしまうといったことでしょうか?
グル:そうですね。そうした欲がどんな形をして現れてくるかみたいな話で。
かずお:それに普通の業界ではありえないようなトラブルが起きるんですよね。法律では問題ないのに、隣地のおじいちゃんと揉めて「絶対建てさせない!」となってしまい、様々な嫌がらせで本当にマンションが建てられなくなることもあります。
――毎年、どういう人の投稿が多いでしょう?
グル:不動産と関わっている方が多いですね。不動産関係の会計士、不動産鑑定士など士業の方もいる。あとは金融機関の方も多いです。
――11月にツイッターで投稿を募集し、12月に大賞が選ばれますね。選考には一般投票とメンバーによる投票の2種類があるそうですね。一般投票だと、写真や文面が面白い案件に人気が集まりそうですが、メンバーの方々が評価をする際の基準とは?
グル:根本的にはその年の記念碑的なプロジェクトです。失敗でも成功でもいいんですけど、僕ら不動産屋さんが見たら勉強になるとか、これだけは忘れたくないプロジェクト。やっぱり保存していきたいというのがあるんです。
かずお:もともとの趣旨からそうなんですよね。その意味では、ただの狭小物件やおもしろ間取りなどは、ちょっと僕らの趣旨から外れてしまうんですよね。
――今年の投稿の特徴はありますか?
かずお:郊外のボロ戸建ての投稿が多いことでした。ここ数年は普通のサラリーマンがアパート投資をするブームがあったんですよ。ちょっと前までは上場企業に勤めていたりすると、お金がすぐ借りられて不動産投資できたんですけど、最近借りられなくなってきた。それで引き取り手もおらず、値段が落ちている郊外のボロ戸建てを買って、自分でDIYで直して、貸すことをしはじめている。
グル:最近、増えましたよね。
かずお:そういう中で、カリスマ性のある人が出てきている。おばあちゃんが死んじゃって誰も引き取り手がいない物件を、数十万円で残置物ありでも買う。すると家の中から小判や日本刀が出てきて、古物商に売ったらそれだけでペイできたとか。それって不動産投資なのかな、みたいな(笑)。
――不動産業界で話題になった事件についてはどうでしょう?
かずお:大物ネタは結構かぶっているのが多かったかな。武蔵小杉の下水が逆流したマンション、消臭スプレーに引火して大爆発したアパマンショップ、屋根裏の界壁がない不備があったレオパレスとかですかね。全体的に裾野が広がっている感はありますね。
グル:レオパレスは結構でかいですね。何万棟も不備が見つかって、改修していくんでしょうけど、それだけですごい費用ですし。ブランドをめっちゃ毀損してもうたんで、この先どうするのかっていうのがありますよね。
ふざけた名前で法人化すると...
――全宅ツイは10月に同時に6冊の本(『稼げる会社が分かる! 不動産就活2.0』『宅建出るで!』『不動産営業マンはつらいよ』『業界で噂の劇薬裏技集 不動産大技林』『実況! 会社つぶれる!!』『クソ物件オブザイヤー』)を出していますが、どういう経緯でこんなに出すことになったんですか?
かずお:(出版した)KKベストセラーズの前の社長さんとツイッターで仲良くしていて、今年に2月に「本書こうよ」って言われたんです。「どうせやるなら前例のないことをやりたいから6冊同時刊行だ!」と。「へー凄い」って思って、安請け合いしたのがスタートでした。どんなに大変だか分かっていなかった。結局、締め切りギリギリにならないと火がつかなくて、9月末が入稿だって言われてるのに、8月のお盆明けまでほとんど原稿進んでなかったんですけど。
グル:不動産業界は9月は忙しいんですけど、本当きつかったですよね。「早く書いて」って言われて。本業もあるのでかなり悩ましかったですよ。もう6冊同時刊行はいいですね(笑)。
――どの本も人生が詰まっていますよね。不動産は人生において大きな買い物であるし、実際にそこに人が住んでいるからこそ、何かストーリーがあるというか。
グル:侘び寂びがありますよね。
かずお:皆不動産に対する愛があると思っていて。この業界がすごい面白いと思うのは、仕事嫌いな人があんまりいないんですよ。自分の扱っているものに対する愛がある。それはツイートからもめちゃめちゃ感じ取れます。本当好きなんだな、お前らって。そういう感覚は楽しいですね。もちろん業界が合わなくて即死するソルジャーもたくさんいるけど(笑)。
――今後はどういう活動をしていきますか?
かずお:僕ら実は「合同会社全国宅地建物取引ツイッタラー協会」ってふざけた名前でで法人化しているんですよ。せっかく作ったので、謄本に社名を刻むのを目標に頑張っています。本の出版や原稿執筆などであげた収益で不動産を買いたい。ただ会社名がふざけすぎてて、銀行がお金貸してくれないんですけど。
グル:「全宅ツイ会館」でも「全宅ツイ荘」でも何でもいいんですけどね。小さいマンションだったらもう現金で買えますね。不動産の謄本に「合同会社全国宅地建物取引ツイッタラー協会」って書かれていると面白いと思いますけどね(笑)。
かずお:あとは不動産関連事業で収益をあげたいというのがあって、今年の夏にシェアハウスの業者と業務提携しました。僕らが物件を調達して、彼らがオペレーションをやると。いざいい物件が見つかって、前払いで2年分も支払うって言ったんですけど、オーナーさんに「やっぱりダメだ」と言われて審査落ちしてしまいました。でもそりゃ嫌ですよね。クソ物件オブザイヤーにエントリーされるかもしれないじゃないですか(笑)。「絶対エントリーしないから」って最初に言ったんですけどね。......ということで、ふざけた社名にすると大変なことも多い。でもその苦労も含めて、面白さかなと思っています。