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ハライチ・岩井勇気さん「僕の人生には事件が起きない」インタビュー 鋭い観察眼は、相方にも

岩井勇気さん=2019年12月5日、東京都港区、大野洋介撮影

 「○○なやーつ」で畳みかけていくノリボケ漫才でおなじみのお笑いコンビ「ハライチ」のボケ担当。屈託ない明るさを持つ相方・澤部佑の横で存在感が薄めだが、最近はテレビに出ずっぱりの相方との対比を逆手に取って“じゃない方芸人”“腐り芸人”として、じわじわと自分の立ち位置を確立してきた。初の著書は、平凡な日常を鋭い自己省察でつづったエッセー集だ。

 もともと漫才の台本以外に文章を書く習慣はなく、読書はマンガかラノベだけ。「小説新潮」誌からの連載依頼に「俺はお前らの思っている詩的な文系芸人じゃないんだよ!」と毒づいてみせたが、この発掘は担当編集者の慧眼(けいがん)だろう。水筒であんかけラーメンのスープを持ち歩いてみた話、通販で買った棚の組み立てと格闘した休日のこと。取り立てて事件もない日常を読ませる文章力に目をみはる。

 濃い味付けのエピソードを求められるテレビと違い、「このくらいの話のほうが、人がみえてくるっていうのありますよね」。振り切れた笑いで定評のあるラジオともまた違う、もう一つの表現回路が開けた。

 書くことを通じて、常識を疑ったり、物事について深く考えたりするようになったという。それが遺憾なく発揮されているのが、書き下ろしで加えられた「澤部と僕と」という章だ。幼なじみでもある相方に対して、恐ろしいくらいの観察眼をみせる。「点と点がつながって線になることってありますよね。この『澤部説』をどうしても世に出したかった」。ちなみに相方はまだ本書を読んでいないとか。

 趣味は美術館巡り。挿絵のイラストも自ら描いた。「器用なだけなんですよ。だから行く末が見えちゃうとまた違うことがしたくなるかもしれません」(文・板垣麻衣子、写真・大野洋介)=朝日新聞2019年12月14日掲載