「うるさく、しずかに、ひそひそと 音がきこえてくる絵本」
私たちのまわりにあるさまざまな音。人の声や楽器の音、町や自然の中の音。ブラティスラヴァ世界絵本原画展とボローニャ・ラガッツィ賞でダブル受賞したウクライナの新進作家による絵本は、美しいグラフィックで、いつも当たり前のようにそこにある音をくっきりと認識させてくれる。
じっと、耳を澄ます。聞こえてくるもので、風景が見えてきたり、自分と向き合うことができたり、誰かを思いやったり……。音によって、だんだんと世界が形を成してくる。姉妹本の「目で見てかんじて 世界がみえてくる絵本」もそうだが、科学絵本でありながら、詩的で美しく物語がある。感覚をフルに使って、読むというよりはしっかりと味わいたい。(ロマナ・ロマニーシン、アンドリー・レシヴ著、広松由希子訳、河出書房新社、税抜き2000円、小学校低学年から)【丸善丸の内本店 児童書担当 兼森理恵さん】
「おうさまのこどもたち」
海外でも人気の「ちいさなおうさま」シリーズ3作目。王様は10人の子どもに、人々の暮らしを見てどのように国を治めたいか考えるようにと告げます。町から帰った子どもたちは、後継者としてではなく、それぞれ自分のやりたい仕事を決めていました。花屋、車の整備士、アイドル歌手、保育士……でものんびりやの末っ子だけは? ポップにデザインされた遊び心いっぱいの画面にワクワク。人の幸せを願って働く気持ちは兄弟姉妹いっしょ。職も性も人種も障害もフラットに描かれた、こんな平和で心豊かな王国に住みたい。(三浦太郎作、偕成社、税抜き1400円、3歳から)【絵本評論家・作家 広松由希子さん】
「明日をさがす旅 故郷を追われた子どもたち」
今、地球上にはふるさとを追われ命の危険も覚悟で国外へ移り住まなくてはならない人たちが大勢いる。この物語には、そういう状況にありながらも希望を失わずに生きていく子どもたちの姿が描かれている。ナチスの迫害からのがれるユダヤ人の少年。カストロ政権下のキューバからアメリカに向かう少女。内戦中のシリアからヨーロッパを目指す少年。同時進行でつづられる三つの物語が最後のほうでつながるところが圧巻である。難民問題を考えるきっかけにしたい1冊。(アラン・グラッツ作、さくまゆみこ訳、福音館書店、税抜き2200円、小学校高学年から)【ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん】=朝日新聞2019年12月28日掲載