「宇宙から帰ってきた日本人」「星宙の飛行士」書評 認め合い 助け合い 乗り越える
ISBN: 9784163911076
発売⽇: 2019/11/13
サイズ: 19cm/255p
ISBN: 9784788908000
発売⽇: 2019/11/05
サイズ: 21cm/191p
宇宙から帰ってきた日本人 日本人宇宙飛行士全12人の証言 [著]稲泉連/星宙の飛行士 [著]油井亀美也ほか
体験や感想を熱く語る宇宙飛行士、宇宙は「出張先の一つ」とドライに話す飛行士。どちらでも、一人ずつ感じ方は違うはず。聞き手はそれを引き出したい。
初期の飛行士と「新世代」飛行士の違い、宇宙滞在前後の変化、人生観や地球観が変わるか否か。『宇宙から帰ってきた日本人』は、12人の宇宙飛行士のインタビューから共通点や相違点が浮かび上がる。
生命感あふれる地球や暗黒の宇宙を語る言葉は、SNSで拡散しそうな目を引く表現もあるが、平凡な言葉が頭にこびりつく。「とにかく美しいなあ」「地球は大きいな」。そこに至る飛行士たちの思考をたどると、その言葉の重みが伝わり、その人生が映し出されているようでもある。
帰還後に地上でもらった名刺が「すごく重かった」体験、訓練や国際宇宙ステーション(ISS)で外国の飛行士と過ごした経験や感じたことも興味深い。
『星宙(ほしぞら)の飛行士』では、多くのカラー写真も読み解かれる。宇宙からの夜景や稲妻、噴火、森林火災。何もないと思った台風の目の中に渦巻く雲、ベルリンの東西で色が違う夜のあかり。「自分の心を撮影しているような不思議な感慨を抱く」ことがあるという。
自衛隊出身の油井さん。その当時の体験や思い、宇宙飛行士としてのロシアでの訓練を通して変わる考え方、どちらも引き込まれる。
「仮想の敵」だったロシア人たちと語り合い、「よく知った時、人生が変わりました」。「ISSでは、各国がそれぞれのいいところを認め合います」。違いを乗り越え助け合わなければ死につながるのは、ISSに限るまい。
巨額の予算がかかる宇宙開発は、費用対効果が問われる。宇宙での実験や作業ばかりでなく、体験を人々に語るのも飛行士のミッション。夢や勇気、平和の大切さが伝わり、何かが変わるきっかけとなれば、それも一つの効果だろう。お金には換算できないけれど。
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いないずみ・れん 1979年生まれ。ノンフィクション作家▽ゆい・きみや 1970年生まれ。JAXA宇宙飛行士。