新年はマンガ好きがマンガ三昧(ざんまい)となる時季です。というのも、年末には色々な形でその年のマンガの収穫が総括されるので、お正月休みには自分の読み逃した話題作や問題作を必死で追いかけることになります。いまや日本マンガのジャンルと題材は果てしなく広がり、その全貌(ぜんぼう)を把握しているファンも専門家も存在しないのです。
昨年一番の人気作は『鬼滅(きめつ)の刃(やいば)』で、アニメ版主題歌は紅白歌合戦で歌われました。うちの娘も普段は絶対不可能な朝6時起きをして、コンビニのロー*ンでおオマケに貰(もら)える『鬼滅』のクリアファイルを求めて自転車で何軒も回っていました。受験生なのに。
マンガの年間ベスト本のなかで最も信頼できるのは、季刊カルチャー誌「フリースタイル」の特集「THE BEST MANGA 2020 このマンガを読め!」です。私自身、ここでベスト20に入ったマンガは、知らない作品があれば全部買って読んでいます。今年のベスト5を紹介してみましょう。
(1)和山(わやま)やま『夢中さ、きみに。』
(2)田島列島『水は海に向かって流れる』
(2)島田虎之介『ロボ・サピエンス前史』
(4)奥田亜紀子『心臓』
(5)遠藤達哉『SPY×FAMILY』
どれも個性的な秀作ですが、ジャンルも感覚もタッチもまったく違うので、甲乙つけがたい、というより、甲乙をつけること自体が無理なのです。
(5)の遠藤作品は上出来の娯楽作。父がスパイで、母が殺し屋、娘が超能力者という疑似家族が主人公のアクション物。皮肉でとても洒落(しゃれ)ていて、大人が読んでもニヤリと満足できます。
一転して、(4)の奥田作品は、前衛的ともいえる大胆なコマ構成をもった短編集。しかし、じっくり読むと、じんわりと心に染みて、双子の片方が植物状態になった「神様」には泣かされます。
(2)の島田作品も、グラフィックな完成度が驚異のひと言。人間と異なり、何十万年もの寿命を生きるロボットたちの孤独と悲哀に心をゆさぶられます。世界的なレベルでも通用する造型のセンスと思想性をもった傑作です。
同点で(2)の田島作品は愛すべき家族ドラマ。高度な心理性と画力を備え、「別冊少年マガジン」連載にびっくり。少年少女から老人まで、人情の機微をこれほど繊細に描きだすマンガはめったにない。私はこれがベストワンです。
総合1位になった和山作品は、ひどく素っ頓狂な異色ユーモアマンガ。じつに丹念なタッチで高校生のちょっとズレた人々の生態を活写します。その顔の表情だけで読者を噴きださせる名人芸には脱帽です。=朝日新聞2020年1月15日掲載