地域に密着した歴史研究による好著の出版が相次いでいる。
まず、『古墳時代の須恵器と地域社会』(六一書房)。著者の藤野一之さんは古代の土器の一種である須恵器の専門家で、関東地方から出土する、この種の器の産地やその供給された範囲、それらの使われ方などを研究してきた。
本書では、古墳時代中期には近畿の陶邑窯(すえむらよう)を中心に生産されていた須恵器が、後期には、地方窯の発展に伴い、関東でも群馬産や埼玉産の須恵器が幅を利かせ、広域流通圏を確立するようになったことなどが出土資料から語られる。
一方、江田郁夫編『中世宇都宮氏』(戎光祥出版)は13人の研究者による論文集。平安貴族の藤原道長の兄を祖とし、鎌倉時代~戦国時代にかけて下野国などで大規模な武士団を形成していた宇都宮氏が在地化していくプロセスや、彼らが擁護した仏教や仏師との関わりなどが提示される。
中でも、藤原定家撰とされる「百人一首」の成立に、宇都宮氏が関わっていた可能性を指摘した田渕句美子氏の論考は興味深い。
同氏の研究によると、定家の日記「明月記」には、定家が息子・為家のしゅうとにあたる宇都宮氏5代当主の頼綱(出家して蓮生)に自ら揮毫した「嵯峨中院障子色紙形」(嵯峨の別荘の障子に貼られた和歌を書いた色紙)を贈った旨が書かれており、それらが「百人一首」の母胎として知られる「百人秀歌」の一部になったと考えられるという。
蓮生は歌人としても有名で、定家はこのほかにも「宇都宮神宮寺障子和歌」として知られる障子和歌などを贈っている。定家・為家親子とはかなり親しく行き来していたようだ。
さらには、2017年に栃木県立博物館で開かれた宇都宮氏に関わる特別展で初公開され、話題を呼んだ新たな「足利尊氏像」に関する、発見者の研究報告も収録。文化に造詣(ぞうけい)が深かった名門武士・宇都宮氏の全体像がよくわかる構成になっている。(編集委員・宮代栄一)=朝日新聞2020年1月22日掲載