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「ぼっちのアリは死ぬ」書評 他者との関わりが持つ意味とは

評者: 竹石涼子 / 朝⽇新聞掲載:2025年08月02日
ぼっちのアリは死ぬ ――昆虫研究の最前線 (ちくま新書 1851) 著者:古藤 日子 出版社:筑摩書房 ジャンル:科学

ISBN: 9784480076809
発売⽇: 2025/04/10
サイズ: 17.3×0.9cm/192p

「ぼっちのアリは死ぬ」 [著]古藤日子

 知っているようで知らない現象への挑戦。ぼっちのアリが早死にするのも、その一つだ。
 この本によると、現象が報告されたのは戦時下の1944年。フランスの研究者による論文だった。アリを10匹で飼うと20日後も半数は生きていたが、1匹だと5日ほどで半数が死ぬという。
 著者が、半世紀以上も注目されてこなかった、この謎に取り組んだのは2011年。博士課程を終え、対象を細胞から生物へ、社会性へ、視点を変えたい、とスイスへ留学したときのことだ。同僚から論文を紹介されたのがきっかけだった。
 論文を検証し、アリ一匹一匹にバーコードを貼り付け、行動を追う。集団だと巣の中で固まるのに、1匹だと巣から出て、壁際を早足でウロウロし、果ては、老いたアリから死んでしまう。
 解析は行動だけでなく、体内にも及ぶ。解剖してみると、ウロウロするぼっちアリは腹具合も悪く、餌をエネルギーに変えられずにいた。
 生態学、分子生物学などから、様々な手法や新しい解析ツールを駆使し、行動と体の変化との関係に迫る。
 軟らかい文体もあいまって、結果をどう考察し、次へつなげたのか、研究者のアタマの中をのぞかせてもらっているようで楽しい。
 印象的なのは、「その実験はなぜ必要か」「それで何を明らかにしたいのか」が、極めて明確で、専門外の人にもわかりやすいことだ。
 つねに自問し、突き詰め、他人が理解できる言葉を見つけることを誠実に繰り返してきた、著者の積み重ねを感じる。
 研究は今も続く。社会での役割がなくなることは生物にどんな影響を与えるのか。他者との関わりが持つ意味はなにか。体の変化が先か、行動の変化が先か。アリにとどまらない、人間への示唆とは何なのか。研究の原点となった友人への思いにもさらっと触れている。研究者の体温を感じ、応援したくなった。
    ◇
ことう・あきこ 1982年生まれ。産業技術総合研究所主任研究員。専門はアリの社会性研究。本書が初の単著となる。