第1位 竹下文子/作、町田尚子/絵「なまえのないねこ」(小峰書店)
名前のないのらねこが「他の猫には名前があるけど、自分は名前をつけてもらったことがない」と、町の猫たちを観察していく物語。町田尚子さんの描く個性的な猫たちが印象的な一冊で、行く先々で猫を飼う人のぬくもりややさしさが感じられます。
「近所の本屋さんでこの本を見つけたとき、『あった』じゃなくて『いた』と思ったんです。そこに、本当に表紙の猫がいるように見えて。誰かに連れて帰ってもらえたらいいなと思いました」と文章を書いた竹下文子さん。絵を描いた町田尚子さんは「最後のシーンは、あえて親子を出しました。もし子どもだけで猫を拾って来たら、お母さんは間違いなく『飼えないから捨ててきなさい!』って言うでしょう。でもこの絵本を親子で読んだら、同じ口でそんなこと言えないと思うんです。きっと飼える家族を探してくれる。出会いを待っているたくさんの猫たちのためにも、多くの人に読んでもらえたらと思います」と話していました。
第2位 ヨシタケシンスケ「ころべばいいのに」(ブロンズ新社)
4年連続で絵本屋さん大賞を受賞しているヨシタケシンスケさんは、今回は「嫌い」をテーマにした絵本で第2位に輝きました。「嫌いな人っているよね、を共感したかったんです。子ども向けの本ではさすがに無理かなと思ったんですが、編集さんができますよ、子どもにも必要なテーマですよって後押ししてくれて」とヨシタケさん。今回もクスッと笑えるシチュエーションが満載で、嫌いという気持ちを、自分の中で落ち着かせる方法論にアプローチした、ユニークな絵本です。
>「わたしのわごむはわたさない」ヨシタケシンスケさんのインタビュー記事はこちら
第3位 シゲタサヤカ「たべものやさん しりとりたいかい かいさいします」(白泉社)
食べ物を題材にした絵本を作り続けているシゲタサヤカさんの、作家活動10年目、第10作品となる記念すべき本。「しりとりは子どもの頃から何度もやっていましたが、改めてルールを考えたら、なんてシビアなんだろうと思って。これを食べ物にできたらおもしろいなと思いました」とシゲタさん。最後に「ン」がつくメニューの多いお店が、思いがけないラストを飾るユーモラスなストーリー。書店グランデの書店員さんが、作品紹介のフリーペーパーを作ってくれたことにも感激したそうです。
>同作と「まないたにりょうりをあげないこと」についてのシゲタサヤカさんのインタビュー記事はこちら
第4位 ヨシタケシンスケ「それしか ないわけ ないでしょう」(白泉社)
第2位に続き、第4位も受賞したヨシタケさん。自身の口癖から生まれた「考え方」の絵本です。「きっかけは数年前の仕事で、これからは子どもにとって大変な時代が来るというテーマのイラストを描いたことです。未来について怖がらせるだけでなく、楽しい未来も子どもたちに伝えたいと思いました。大人の言うことがすべてじゃない、選択肢は自分で増やせるんだと伝えたいです」
第5位 たにかわしゅんたろう/作、Noritake/絵「へいわとせんそう」(ブロンズ新社)
平和と戦争の何が違うのかを、谷川俊太郎さんが一言で表現し、Noritakeさんが白黒の線画で淡々と描いた作品。教訓やトラウマになりがちな戦争本とは異なり、子どもに考える余白を残す内容となっています。「平和と戦争という重たいテーマですが、戦争は良くないということを意識するより、ちゃんと描こう、ちゃんと伝えようということを意識しました」とNoritakeさん。谷川さん、担当編集、デザイナーと4人で話し合いながら、どんどん良いものができていくのを実感していったといいます。
>「へいわとせんそう」谷川俊太郎さん、Noritakeさんのインタビュー記事はこちら
第6位 かこさとし/作、鈴木まもる/絵「みずとは なんじゃ?」(小峰書店)
かこさとしさんの遺作となった本で、鈴木まもるさんが遺志をついで出版した「水」がテーマの絵本です。「かこさんが僕の手を何度もさすって『よろしくお願いします』って言ってくださった。いまでもその手の感触を覚えています」と、具合の悪かったかこさんに、鈴木さんが会いに行ったときの話をしてくれました。「かこさんが自由な子どもの遊び場を作りたいという園長先生だとしたら、ぼくは大工として園舎をつくりたい。こういう形でかこさんの世界がよりたくさんのお子さんに届けばと思っています」
>同作と「せんろはつづく」シリーズについての鈴木まもるさんのインタビュー記事はこちら
第7位 junaida「Michi」(福音館書店)
絵本でありアートブックである『Michi』は、美しい街並みに白い道が続き、表紙は男の子、反対の表紙は女の子が出発して真ん中で出会うという言葉のない物語。「ぼくが作りたかったのは、こちら側で正解を作らない自由な楽しみ。絵本ですが、子どもも大人も関係なく、空想する楽しさを味わってほしいと思っています」というjunaida(ジュナイダ)さん。重厚感のある本ですが、「宝物のような一冊」「結婚される大人の方にもおすすめしたい」という書店員さんの感想も印象的でした。
第8位 シャーロット・ゾロトウ/作、酒井駒子/絵・訳「ねえさんといもうと」(あすなろ書房)
アメリカのシャーロット・ゾロトウさんが1966年に発表したものを、酒井駒子さんが訳して絵を描いた作品。優しいお姉さんと妹が成長する瞬間を描いた、甘酸っぱい気持ちになる絵本です。酒井さんは、贈賞式は欠席しましたが、手紙が読み上げられ、「この本が出版された年に生まれた私も、いまではすっかりおばあちゃんに。でもゾロトウの言葉はいまも色あせることがありません」とコメント。名作のリメイクは受け入れてもらえるのか心配なことも多かったけれど、書店員さんが選んでくれたことが本当に嬉しかったと綴られていました。
>「ビロードのうさぎ」酒井駒子さんのインタビュー記事はこちら
第9位 大森裕子「ねこのずかん」(白泉社)
昨年の『パンのずかん』に引き続き、『ねこのずかん』で第9位を受賞した大森裕子さん。この作品には、いろんな種類、柄、表情などの猫が並んでいて、ページをめくるごとに、猫好きにはたまらないツボを刺激されます。猫は飼い主のことを「ダメな大きな猫だと思っている」とも書かれていて、大森さんは「人間がどんなにかっこつけても、猫から見たら、ダメな大きな猫。そう考えると、悩みなんてどうってことないと思えてきます」と、視点を切り替えるおもしろさなども考えながら描いたと語りました。
第10位 工藤ノリコ「ノラネコぐんだん おばけのやま」(白泉社)
第10位は、パパママ賞の第1位も獲得した「ノラネコぐんだん」の新作です。このシリーズは、毎年ベスト10入りする人気作品。「ノラネコぐんだんのシリーズを最初から読んでくれている子は、そろそろ小1になります。それで前作では、画面を分割したり、少し込み入ったストーリーを描きました。でも何か欠けている気がして、今回は一転、1、2歳が思い切り楽しめるものを描いています」と工藤ノリコさん。どろぼうに入った先で盗まれてしまったり、迷路があったりと、今作も楽しい工夫がいっぱいの絵本になっています。
>「ノラネコぐんだん」シリーズ、工藤ノリコさんのインタビュー記事はこちら
新人賞の第1位は絵本芸人・ひろたあきらさんのデビュー作
また、惜しくもベスト10には入らなかったけれど、話題となっていたのは、新人賞の第1位を獲得し、第28位にもランクインした『むれ』(KADOKAWA)。吉本興業所属の絵本芸人、ひろたあきらさんのデビュー作です。「絵本が大好きで、書店で読み聞かせ会をやっているのですが、ストーリーのある本を読んでもあまりお客さんの反応がなくて。芸人なので、反応がないってだけで脂汗かいてしまうんです。もっと子どもとやり取りができる絵本がほしい。それなら自分で作ってしまおう! と思ってできた本です。子どもがすごく近寄ってきてくれて嬉しいです」とひろたさん。これからも新作を作っていきたいと、熱意を込めて話してくれました。
(構成:日下淳子、写真:松嶋愛)