第162回芥川賞・直木賞の贈呈式が20日、東京都内であった。両受賞者ともに言及したのは、作品を支える「過去の人々」だった。
亡き人々にどやされて 芥川賞・古川さん
「背高泡立草」(すばる10月号、同題で集英社刊)で芥川賞が贈られた古川真人さんはスピーチで、「背中をどやしつける人々」が受賞に至らしめた、と表現した。執筆時、「もうずいぶん前に死んだおじさんやばあさんが、後ろからのぞきこんで、もうちょっとよく書けよとか、うちはそんな風には言わなかったとか言ってくる」といった感覚に襲われたという。
この死者たちは小説のなかで、自分に実際に見せていたのとは違う姿や声で生き生きと動き回っているという。滝口悠生さんの2016年の芥川賞受賞作のタイトルをひき、「背中をどやしつける人々は、『死んでいない者』なのだろうと感じている」と話した。
過去の人々全てに感謝 直木賞・川越さん
直木賞が贈られた川越宗一さんの『熱源』(文芸春秋)は、南極探検に赴いたアイヌ民族の男性と、ポーランドの文化人類学者を主人公に、明治維新後から第2次世界大戦終結に至るまでを描く。デビュー2作目での受賞で、前作も豊臣秀吉の朝鮮出兵が題材の歴史小説だった。「必ず作品の題材に取った時代があり、人々がいる」
小説なので、虚構や自分なりの創作は入るとしながらも、「過去の人々の生活や生き様」がこれまでも、そして歴史小説を書く限りではこれからも不可欠であることを強調。「改めて過去に生きたすべての人々に感謝をしている」と語った。(興野優平)=朝日新聞2020年2月26日掲載