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市村正親さん「役者ほど素敵な商売はない」インタビュー 演劇人の生の魅力を活写

市村正親さん=工藤隆太郎撮影

 年齢を超越した若々しさで躍動する人気俳優が、70歳を機に人生を振り返った。華やかな舞台の背後にある厳しい稽古や鍛錬、競争を楽しみ、味わい尽くすことこそが役者の愉楽だと伝わってくる。

 「役を生きるということがようやく分かってきた。僕の舞台を見続けてくれた人に、本音をしゃべるような気持ちでつくった本です」

 役者は一日にして成らず。29歳まで風呂なしの狭いアパートに住み、芝居に打ち込んだ。水戸黄門で知られる西村晃さんの付き人で3年、劇団四季で多くの舞台に立った17年。あわせて20年は学びの日々。

 「役者としての“成人式”」と記す四季からの独立は41歳のときだ。当たり役だった「オペラ座の怪人」のファントムを降ろされると、衣装スタッフに漏れ聞いたのがきっかけだった。四季を率いた浅利慶太さんが最初に伝えてくれたなら、「ずっと劇団に残ったかもしれない。でも、人生にもしもはない」。

 師である浅利さんの人間的な生々しい姿は、本書の読みどころのひとつ。持ち前の人間観察の鋭さで、四季時代からの盟友の鹿賀丈史さんや「リチャード三世」「ハムレット」などを一緒につくった蜷川幸雄さん、妻の篠原涼子さんら、多くの演劇人の魅力を活写している。

 舞台の立ち姿にも通じるポジティブな姿勢が全編に横溢(おういつ)する。数年前に初期の胃がんを克服した体験は、太りにくくなり、代表作「ミス・サイゴン」のエンジニアを演じ続けられると思った、といった具合だ。

 後輩たちに自身の経験を手渡すことも意識した。ゆえにミュージカルや現代劇の優れた芸談を読む趣もある。2人の息子も両親の仕事に興味を持っている様子。「親の力ではなく、自分の力でこの世界と出会い、そこに僕がいたらおもしろいね」(文・藤谷浩二、写真・工藤隆太郎)=朝日新聞2020年3月7日掲載