飯田泰三さん「日本政治思想史講義 『丸山眞男講義録 第四冊』を精読する」 「解題屋」が全体をみる
今年は政治学者、思想史家の丸山眞男没後30年。著作集刊行やアーカイブ作成が続いてきた。「仕事は受け継がれていると思いたいけれど」
丸山が、日本の神話から鎌倉新仏教まで論じた1964年度の『丸山眞男講義録 第四冊』(98年刊)で、編集を担当。それを精読した自らの2004年の講義「日本政治思想史」の記録が本書だ。
日本に外来思想が入ると、古くからある思想の「古層」や「原型」によって変容される、という丸山の論を紹介。記紀神話と古代国家、天皇制の正統性、仏教と政治の関係を考える。聖徳太子の評価にふれ、世俗権力からの自立を目指した親鸞と道元は、「古層」や「原型」から飛躍し、普遍的な価値の世界を発見した点で傑出しているという。
おおむね丸山に沿うが、丁寧でわかりやすい。新たに論を展開しているのは、日本は外来思想に〈徹底的にコミットする中から、日本独自のオリジナルな思想を生み出していく〉として、近世以降の見取り図を示したところだ。
儒教については、荻生徂徠や本居宣長、安藤昌益。ヨーロッパの思想やキリスト教などについては、福沢諭吉、中江兆民、内村鑑三、長谷川如是閑、吉野作造……。この整理は明快だ。自ら「解題屋」と称するように、如是閑や吉野、丸山らの解題を多く手がけたことで、全体を俯瞰(ふかん)する目がつくられたのだろう。
高校時代はニーチェやドストエフスキーに熱中したが、大学1年で読んだ丸山の『日本の思想』に魅了された。3年時に63年度の講義を聴き、「原型」を克服する親鸞らの「普遍者の自覚」に衝撃を受け、研究者の道へ。
「僕の学問の出発点になった。丸山眞男と出会い、追っかけてこられた人生です。何のために生きるかは永遠に答えられないが、それがあったから生きることができた」
2年前に出した『近代日本思想史大概』は明治維新から高度成長まで、本書は古代から鎌倉時代までを描いた。ライフワークとする通史で、残るのは近世だ。かつての教え子から、近世の講義ノートのコピーが送られてきたという。(文・石田祐樹 写真・小山幸佑)=朝日新聞2026年4月18日掲載