もうすぐ新入学の季節。小学校の図書室には、家には入りきらないくらいたくさんの本が並んでいます。小学校の図書室の先生として30年以上働き、今は川崎市の自宅で「いぬくら子ども文庫」を開く渡部康夫さん(69)に、新1年生に伝えたいことを聞きました。
渡部さんの家に入ると、玄関から居間まで絵本や物語の本、紙芝居などがずらり。1万冊以上あり、毎週水曜日に地域の子どもたちに貸し出している。
渡部さんは9年前まで小学校の先生をしていた。でも、渡部さんは「教科書だけを信用しちゃいけない」。図書室に行けば、教科書には載っていない知識や、喜怒哀楽を描いた物語が本の中に詰まっている。「あっちこっち寄り道をするように本を手にとって、一つの物事にも色々な考え方ができることを知ってほしい」という。
興味のなかったテーマでも、読み始めてみたら面白くなってのめり込んだ子もいる。
漫才やコントの作り方が書かれた本を読んだ子は、同じ本を読んで仲良くなった友だちとお笑いコンビを組んで文庫でお笑いライブを開催。一時期学校に行けなくなってしまった子が、本で手話のことを調べてノートにまとめ、先生にほめられたことが自信になってまた通えるようになったこともあった。
渡部さんは「背表紙を見て、何が書かれているのか想像するだけでもいい。宝探しをするように、自由に本との出会いを楽しんでほしい」と話した。(伊藤舞虹)=朝日新聞2020年3月28日掲載