ありそうでなかった父親向け育児雑誌……と紹介しようと思ったら、もう54号だという。季刊だからもう10年以上前から出ていたことになる。知らなかった。
とにかくコンセプトが素晴らしい。父親ももっと子育てに参加しよう、という掛け声だけはあちこちから聞こえるけれど、なかなか浸透しない。そんな社会問題にスタイリッシュに挑む。
子育て雑誌でありながら表紙に子どもを使わず、かっこいい著名人を登場させるのは、たぶん正解だ。たとえ親バカなパパであっても、赤ちゃんの笑顔全開の育児雑誌はなんだか自分の世界を全部捨てて育児に没入しないといけないように思われて、躊躇(ちゅうちょ)してしまうのだ。仕事や自分の世界と育児は両立できると、この表紙は暗に語っているのだろう。
中身が一瞬カタログ雑誌っぽく見えるのも、男心をくすぐる戦略かもしれない。最新ベビーカーパーフェクトガイドという特集では、写真がかっこよすぎてちょっと笑ってしまったが、実際問題、巻末のベビーカー名鑑、抱っこひも名鑑、チャイルドシート名鑑とともにかなり役立つ気がする。
一般の育児雑誌に比べると子育てに関する実情報が少なく、掘り下げもあっさりしている点は母親から見れば物足りないだろう。それでも読んでみるとさらりといいことが書いてある。
「自己肯定感を育む“ほめ術”とは?」という記事には膝(ひざ)を打った。子どもの写真を飾るとすごい効用があるという。仲睦(なかむつ)まじい家族写真や自分が頑張っている姿を子ども自身が見ることで、自己肯定感がアップするそうだ。さらに写真を見ながら褒めると、叱る回数も激減。親の自己肯定感まであがったといった報告もある。
そう簡単にいくかなと思われそうだが、実はこれ私も経験がある。子どもが小さい頃、写真を撮りまくっては壁に飾ったり親バカ全開のアルバムを作ったりしていたら、子どもがよくそれを見ていたのだ。子どもとの会話のきっかけにもなった。自分を肯定していたのかどうかはわからないにしても、愛されていることは伝わったんじゃないかと思う。
「はじめての育児でありがちなミス」も面白い。「家をキレイに保とうと頑張りすぎること」や「ベビーグッズの買い過ぎ」など、おおいに身に覚えが……。このネタ、もっと読んでみたい。
子育ては心配ごとも苦労も多いけれど、楽しもうと思えばどんどん楽しくなる。父親が参加しないのは、どう考えても損なのであった。=朝日新聞2020年4月1日掲載