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青崎有吾さんが弟からCDを何度も借りた「爆風スランプ」 若者の青臭さを歌わせたら天下一品

 父は洋楽好きで、昔バンドなんかもやっていたそうで、部屋の棚にはレコードとテープがたくさんあった。

 そんな家で育ったのだから自分も自然と音楽好きに……は、どういうわけかならなかった。かわりに弟がなった。中学生のころは帰宅すると、大抵いつも壁の向こうからビートルズやクイーンやオアシスが流れていて、兄もそれをぼんやり聴いたり、音がでかいと文句を言ったりする、というのが常だった。音楽とは弟がかけるものであり、CDとは隣の部屋から借りてくるものだった。刊行中の『ノッキンオン・ロックドドア』というシリーズには洋楽ネタがけっこう出てくるが、実はあれも父や弟に「何かいい曲ない?」と聞きながら書いたりしている。

 というわけで隣室からのレンタル履歴を思い出してみたところ、だいぶ贔屓にしていたと見え、何度も借りているグループがあった。「爆風スランプ」である。

 84年結成、99年活動休止。ご存知サンプラザ中野くん、パッパラー河合らによる四人組バンド。「Runner」と「大きなタマネギの下で」が有名すぎるせいだろうか、ちょっといい歌を歌う人たちという印象で固まってしまっている気がするが、本来のコミックバンド的魅力も忘れたくない。「週刊東京『少女A』」や「無理だ!決定盤」をはじめ、笑える曲が多いのだ。

 中でもいまだに口ずさんでしまうのが「青春りっしんべん」という一曲。2バージョンあるが1のほうだ。気になる女子を自宅に招き、隙をみて唇を奪おうとする男子の歌なのだが、これが本当にどうしようもない歌詞で、馬鹿馬鹿しくて、見てられなくて。であるがゆえにひどくリアルで、まさに駄目なほうの「若者のすべて」という感じ。こういう青臭さを歌わせたら爆風スランプは天下一品である。「りっしんべん」は何かのメタファーではないかとも思うが言及しないでおく。

 「君の名は。」以降青春アニメの注目作が増えているが、この曲もぜひそういったコンテンツに使用され、エンドロールとともに旬なアーティストのカバーでフルで流していただきたいと思う。もし新海監督がこの文章を読まれていたらぜひご検討ください。

 余談だが数年前、カラオケに行き採点モードで「青春りっしんべん」を歌ったところ、月間ランキングで全国1位と出た。喜んだのもつかの間、よく見るとその月に「青春りっしんべん」を歌っている人が日本で僕一人しかいなかった。同世代間でもたとえば「筋肉少女帯」が好きという人は多いが、爆風はあまり聴かれていないようである。寂しい。やはり新海コラボしかない。