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ザ・キャビンカンパニーの絵本「しんごうきピコリ」 信号機がピンクやオレンジに! 車はどうする!?

文:坂田未希子、写真:久保貴史

なんで信号は赤、青、黄なんだろう

――青は「すすんでもよし」、黄色は「とまれ」、赤は「ぜったい とまれ」。じゃあ、ピンクは? オレンジは? 信号機の色が変わるたびに、車が逆立ちしたりジャンプしたり大騒ぎ。ザ・キャビンカンパニーの『しんごうきピコリ』(あかね書房)は、奇想天外な展開が楽しい絵本だ。

吉岡:お話を思いついたのは車の中でした。最初に絵本のお話をいただいてから何度も案を出していたのですが、全てボツになって、この先どういうお話を作っていけばいいのか悩んでいた時で。気分転換にドライブに出て、信号待ちをしながら「なんで信号は赤、青、黄なんだろう」って思ったのがきっかけでした。ピンクが出たら車はどうなるのか考えたら楽しくなって、想像が膨らんでいきました。

阿部:そこからはすぐ物語ができあがりました。編集者さんからも、これならってことで、初稿から内容はほとんど変わっていません。

『しんごうきピコリ』(あかね書房)より

――最初は交通ルールを学ぶ絵本だと思って読んでいくと、話がガラッと変わり、次はどうなるんだろうとページをめくるのが待ち遠しくなる。

吉岡:何かを教える絵本にするためではなく、ピンクが出たところからお話を崩していくために、赤、青、黄はちゃんとしたルールにしました。車線、中央線、停止線、横断歩道や信号機がどうなっているのか、道路のルールも調べました。

阿部:警察や教習所の人にもアドバイスをもらいました。教習所では、青は「すすめ」ではなく、「進んでもよし」としています。「進め」では、もし前に穴が空いていても進まなくてはいけないので、「進んでもよし」が正しいと。

吉岡:あとは、車がどんな行動をしたらクスッと笑っちゃうだろうかと考えて。

阿部:だんだん飛躍していったほうが面白いだろうなと思って、逆立ち、ジャンプ、ジューススタンド、ダンゴムシと。

吉岡:子どもって、ダンゴムシが好きで、よく見つけるんですよね。大人になると忘れてしまうような存在だけど、子どもにとっては身近なので、入れたいなと思いました。

物語も絵も、いつもふたりで考えて描いています。絵は、私が人や動物、阿部くんが背景とか建物とか、動かないものを描くことが多くて、いつもだったら車も阿部くんが描くんですが、今回は私が担当しました。できるだけ、生きているような車にしたいと思って、サイドミラーをでんでん虫の目玉みたいにしたり、表情をつけたり工夫しました。

――出版から2年、日本絵本賞読者賞を受賞。デビュー作に次いで2度目の受賞となった。

阿部:デビュー作は応援してくれる人も多かったので、ご褒美のようでもありましたが、これは10作目だったので、絵本作家として認められたような気がしてすごく嬉しかったです。

吉岡:この頃、子どもたちに絵本の読み聞かせをする機会が増えて、絵本に対する想いも変わってきていた時でもありました。

阿部:デビューから5冊目ぐらいまでは、自分たちが読みたい絵本、自分たちの個性を出すことに一生懸命だったんですけど、読み聞かせを重ねるうちに、読者の顔が見えるようになってきたんです。どうしたら子どもたちに楽しんでもらえるか、どういうものを書くべきか考えるようになって。『しんごうきピコリ』は子どもたちにとても人気なので、自分たちの想いがちゃんと届いたんだという実感もあり、賞にもつながったんじゃないかなと思っています。

先輩からの「喝」が創作活動の転機に

――同じ大学で美術を学ぶ中で互いの作風に惹かれ合い、在学中から一緒に創作活動をはじめたふたり。

阿部:文化祭で絵やポストカードを販売するようになったのをきっかけに、作家活動を仕事にしたいと思うようになりました。作品を見てくれた方がポスターに使ってくれたり、ギャラリーで個展を開いたり、イラストの仕事もしていました。

吉岡:そんな時に、デザイナーの先輩から電話がかかってきて「お前たちは何をしたいのかわからん」て、怒られたんです。「ファインアートをやりたいのか、イラストレーターになりたいのか、まったくわからん。そんな奴は失敗する」って罵倒されて。でも、その時に、言い返せなかったんです。

阿部:それまでは、とにかく創作活動をして生きていければいいって思っていたので、ショックもあって、目標を決めることにしたんです。それが絵本でした。もともと絵本が好きで、好きな作家さんも絵本を描いているし、物語というよりも絵本の絵を描きたいと思ったのがはじまりでした。

――鮮やかな色使いと、異国情緒あふれる画風が特徴のザ・キャビンカンパニーさんの絵本。木の板にアクリル絵の具やペンキを使って絵を描く技法も独特なもの。

吉岡:最初は色鉛筆や水彩、クレヨンとかいろんな描き方をしていたんですけど、ある出版社の方に「パッと見たときにキャビンさんの絵ってわかるようなものを描かないと出版するに値しない」って言われて。自分たちに一番しっくりくるやり方を深めようと、大学時代に考えついたこの方法になりました。

阿部:それからは、絵本の隅々まで自分たちが作った跡を残したい、絵だけでなく文字や、見返し、背表紙まで全部自分たちの絵で埋め尽くしたいという気持ちで描いていました。でも最近は、全てに絵を入れるのではなく、物語によって抜きどころも必要だなと思うようになりましたね。

吉岡:目をダイヤ形にしているのもそうです。絵本を読むとき、子どもたちが一番見るのはキャラクターで、中でも顔、特に目を見ると思うんです。目を見ただけでずっと心に残るような、大人になってからも、あ、この目は見たことがあるって思ってもらえるように、特徴をつけました。

阿部:最初は自分たちでも違和感があったんですけど、だんだん慣れてこの目しか描けなくなってきました。

——絵本作家としてデビューして6年。廃校となった小学校をアトリエとし、創作活動を続けながら、これまでに26冊の作品を発表してきた。

阿部:デビューするまで3年ぐらい、ずっと持ち込みをしていて、その時に描き貯めていたものがあるので、まだまだ描きたいものはいっぱいあります。

吉岡:最初は絵が描きたいと思って絵本を作っていましたが、最近は物語にすごく興味が出てきたので、絵を削ぎ落として物語を作っていく、そんな作品も手がけてみたいと思っています。

阿部:子どもって、絵本に限らずどんなことでも遊び倒せるので、無我夢中にいろんなことを全力で楽しんでほしい。そこに、僕らの絵本がちょっとお手伝いできるとうれしいですね。