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にしむらあつこさんの絵本「ゆうびんやさんのホネホネさん」 ガイコツが、毎日まじめにお手紙をお届け

文:坂田未希子

思い切ってガイコツを主人公に

――モノクロの線画が印象的な、にしむらあつこさんの『ゆうびんやさんのホネホネさん』(福音館書店)。夏休みを前に、ワニさんからヘビさんへ、アンコウさんからナマズさんへ、旅のお誘いの手紙が届きます。「ギコギコキーッ」自転車に乗って郵便配達をするのは、なんとガイコツ。そこには、本作で絵本作家としてデビューした、にしむらさんの想いが込められている。

 最初に出版社に持ち込んだのは、郵便屋さんは手だけの登場で、「トントントン、ゆうびんです」と、いろんな動物たちの家に手紙を届けるというものでした。最後に届けに行くのがガイコツの家だった、というオチになっていたのですが、編集者さんのアドバイスもあって、ガイコツの郵便屋さんのお話になりました。

 動物が主人公の絵本はたくさんあるので、みんなに注目してもらえるものは何かと考えて、思い切ってガイコツを主人公に。最初からガイコツをどこかに入れたいという想いはありました。若かった私の反骨精神みたいなものを反映しているのかもしれません。絵本を描きはじめた頃は、人間を上手く描けず、なぜか骨ならスムーズにかけたんです。人間の表層的な部分ではなく、中身だからよかったのか。なぜガイコツなのかとよく聞かれますが、子どもたちは、ガイコツの郵便屋さんを自然なこととして受け止めてくれている気がします。子どもから聞かれたことはないので、大人の方が、理由づけが欲しくなるのかもしれませんね。

『ゆうびんやさんのホネホネさん』(福音館書店)より

 モノクロにしたのも、もともと色を塗ったり、配色を考えたりするのも好きなのですが、輪郭線を描くのが苦手だったんです。絵本作家を目指すなら、輪郭線をうまく描けないと困るなと練習をはじめたら、線で描くのが面白くなってきて。結果的に、ホネホネさんというガイコツの世界と、モノクロの世界がうまくマッチしたというところがありますね。

――次は誰からどんな手紙が届くだろう。読むうちに、手紙を書く楽しさや、受け取った時のうれしさが感じられる本作。郵便をテーマにしたのは、手紙を書くことはもちろん、郵便局が好きだったからだという。

 郵便屋さんというよりも、郵便局が好きです。家も郵便局の隣なんです(笑)。切手が好きだからかもしれません。小さな世界に描かれた絵は作品としても魅力的です。子どもの頃から集めていて、今もかわいい記念切手が出ると買っています。手紙を書くのも好きです。人に何かを伝える時、直接言うよりも手紙を書く方が伝えられるような気がします。そんな想いもあって郵便をテーマにしました。

『ゆうびんやさんのホネホネさん』(福音館書店)より

――最初に作品を持ち込んでから3年、編集部で学びながら『ゆうびんやさんのホネホネさん』が完成。その後、7作続く人気のシリーズとなった。

 初めての絵本だったので、編集部に通うことで、絵本づくりを学んでいった感じです。担当の編集者さんが私の作品を気に入ってくださって、応援してくれている感じが根底にあったので、安心して続けていけました。続編が決まった時はうれしかったですね。時々、脱線したくなって、ぜんぜん違うお話を考えたりしましたが、結局、毎日まじめに郵便を届けるホネホネさんというところに落ち着きました。今は、担当の方が引退されてしまって、その方とずっと一緒にやってきたので、なかなか続編が出ない状況です。

ホネホネさんは人生の道しるべ

――父・西村繁男さん、母親・いまきみちさんと、両親が共に絵本作家という家庭で育ったにしむらさん。創作活動が日常だったという。

 絵本を中心に回っている両親だったので、生活も絵本のような感じでした。子どもの頃、ほかの家とは違うと気づいて、友だちの家に行くと、ほかの人の暮らしとはどんなものかと、観察していたように思います。常に作ることへの意欲がある両親で、先日も、散歩中に草で作ったという籠の写真を見せてくれました。私も小さい頃から絵を描いたり、工作をしたり、自然と「作る」ということを教え込まれたような気がします。

 高校生になって、アート作品を見たり、学園祭のポスターを作ったり、創作活動に興味を持ちはじめました。卒業後はファッションが好きだったこともあって、服飾に進みました。服を作るには作業工程や縫う順番が大事で、それを理解していくと、形として仕上がっていくのが面白かったです。『ホネホネさん』に登場するニョロこさん(ヘビの洋服デザイナー)は、当時の自分を取り入れているところもありますね。

絵:にしむらあつこ

――3年間、服飾を学んだ後、絵本作家の道へ。『ホネホネさん』は人生の道しるべともなった。

 服飾関係で就職となるとなかなか難しいし、私には自宅でできる仕事、絵を描く生活が向いているように思って、絵本作家を目指すことに。それまで吸収して体に溜めてきたものを表現したい!という気持ちが強かったです。やるからには、後で後悔しないようにしようとも強く思いました。

 『ホネホネさん』を描きはじめた頃、まわりの友達が働きはじめて、自分はまだ仕事になっていないという焦りみたいなものもありました。郵便屋さんとして働くホネホネさんを描くことで、私も仕事ができるようになっていったという感覚があります。その後も、ホネホネさんが結婚してから私も結婚して、子どももホネホネさんが先だったり、ホネホネさんは私の人生の道しるべというか、一緒に人生を歩んできた感じです。今は、続編も描かなくなって久しいので、ホネホネさんとは離れている感じですが、自分のルーツでもあり、ホネホネさんの話になると当時の気持ちにパッと戻れる、そんな作品です。

絵:にしむらあつこ

 今も同じくらいの歳の子が読んでくれているのが嬉しいです。時代が変わってもホネホネさんの姿は変わることなく届いているのかな。「読んでいます」という声をいただくと、また頑張ろうって思いますね。