1. HOME
  2. コラム
  3. 猫派ですが、
  4. 撮影中の気がかり 湊かなえ

撮影中の気がかり 湊かなえ

 テレビ番組にリモート出演することになりました。機械に強いわけではないので心配が先立ちましたが、新刊紹介コーナーであり、カメラやタブレットといった機材も、丁寧な説明書付きで送ってもらえるということで、何でも経験が大事だ! と出てみることにしたのです

 そうと決まれば一番の問題は、我が家のどこを背景にするかです。テレビで他の方を観察してみると、壁やカーテンのみの、シンプルな場所が多く選ばれているので、同様の場所を探すことにしました。

 築16年。きれいだと思っていたところも、テレビを意識すると、日焼けや色あせ、小さなシミが目につきます。結局、一番きれいな壁は、玄関のタイル貼りの一面でした。

 家を建てる際、タイルのカタログを見ていたら、ときめく一枚が目に留まり、予算に余裕がないのに、どうしてもこれを貼りたいと、旦那に頼み込んでできた一面です。

 子どもの頃から、駄々を捏(こ)ねる、おねだりをする、といった経験がほとんどない私ですが、何か予感するものがあったのかもしれません。

 照明の明るいところで、という指示があったので、オレンジ色の電球を白色のものに替え、物置にあった刑事ドラマの取調室で使われるような電気スタンドもセットしました。

 機材を置くために、折り畳み式のテーブルを買ったものの、椅子と高さが合わず、脚つき将棋盤と海外ドラマのDVDボックスを重ね、その上にカメラとタブレットを絶妙なバランスで並べた様は、さながら、ブレーメンの音楽隊。番組スタッフによる事前のカメラチェックで、もう一枚、映画のDVDをかませることになり、きれいに映るかよりも、倒れずにもってくれるかと、そちらばかりが気になりながらも、なんとか無事、撮影は終了しました。

 疲れがどっと溢(あふ)れましたが、機材を送り返してひと息つけば、自分一人の取材なら、今後もこれでいいのでは? と、壁に合う観葉植物を調べたりなどしています。=朝日新聞2020年6月3日掲載