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「失われたいくつかの物の目録」 時を拾い上げ、装丁美しく編集

 図書館、博物館、自然保護区――。人類は、膨大な事象があふれる世界から「未来のために必要なもの」を取り出し、分類し、記録してきた。だが、その過程からこぼれおちるものがある。ふるいはほとんどランダムといっていい。私たちが失ったことすら忘れている過去の偉業や絵画、自然。それらをアーカイブの海から拾い上げて再編集した美しい短編集『失われたいくつかの物の目録』(細井直子訳)がドイツから届いた。

 著者のユーディット・シャランスキーは旧東ドイツ出身。9歳のときに祖国が消滅し、両親の離婚も相まって思春期に喪失感を抱えたという。それは作品にも影を落とす。

 例えばこんな一行にはっとする。「本こそあらゆるメディアの中でもっとも完璧なメディアのように思われる」。ブックデザイナーでもある彼女は、著書の装丁を自ら手がけ、本作の原著は「もっとも美しいドイツの本」ベスト5に選ばれた。水戸部功氏が手がけた邦訳版の装丁も、その魅力を受け継いでいる。(板垣麻衣子)=朝日新聞2020年6月6日掲載