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「40分で小説が書ける」体験を 現代ショートショートの旗手・田丸雅智さんインタビュー

文:小沼理、写真:斉藤順子

読書が苦手でも楽しめた、ショートショートとの出会い

——まず、「ショートショート」とはどんなものなのか教えてください。

 僕は現代ショートショートを、簡単に「短くて不思議な物語」と定義しています。より詳しく言うなら、「アイデアと、それをいかした印象的な結末がある物語」。これまでにない斬新なアイデアがあったり、心に残る結末があったりするものですね。ショートショートの文学賞などではこの定義にもとづいて審査をすることが多いです。文字数は文学賞だと原稿用紙5〜15枚ほどが主流ですが、厳密に決められてはいません。

——田丸さんがショートショートにはまったきっかけを教えてください。

 最初にショートショート作品と出会ったのは小学2年生のときです。当時は読書が苦手で、書かれている文字を追う集中力がない子どもでした。すべてを読む前に次々ページをめくってしまうので、当然話の筋なんて追えません。そうして読書に苦手意識を抱きそうになっていたときに読んだのが、国語の教科書に掲載されていたショートショートでした。

 短い作品なので集中力が続かない僕でも一気に読むことができたし、その中でわくわくしたり、はらはらしたり、読書の楽しさをしっかり味わえました。それからどんどんショートショートの魅力にのめり込んでいきましたね。今でこそ長編小説も大好きですが、当時はショートショートばかり読んでいました。

 はじめて自分で作品を書いたのは高校生の頃です。暇を持て余して、ルーズリーフに自分で書いてみたんです。最初に書いたのは「狩猟クラブ」という、人を合法的に狩っていい秘密のクラブを舞台にした作品。人々は狩猟クラブで密かに人間狩りをしてストレスを解消するのですが、最終的に自分が狩りの標的になってしまう……という物語でした。

 作家になった今から考えるとクラシカルで、ありがちな内容なので、どこにも発表はしていません(笑)。でも、当時の友人たちに読ませてみたらみんな面白いと言ってくれて。それまで小説を書くなんて自分には絶対できないことだと勝手に思いこんでいたのですが、「小説って自分で書いてもいいものなんだ」と初めて気づくことができたんです。それから次々に作品を書くようになりました。

年間100回、のべ2万人が参加した「超ショートショート講座」

——作家として精力的に作品を発表するかたわら、ショートショートを書く講座も開催されています。

 講座では「超ショートショート」という、原稿用紙1〜3枚程度の小説を受講者の方に書いてもらいます。超ショートショートは、たとえばこんな作品。ショートショートのエッセンスを持ちながら、さらに短い作品ですね。

“「発電生物」
 電気ウナギの原理を発展させて、自分で発電できる電気タコが開発された。よく、電気コードがたくさん差し込まれていることをタコ足配線と呼ぶが、この電気タコの場合は本当にタコの足を使った配線で、8本足から電気が取れる。ただし、一度にたくさんの電気を使うと熱くなり、ゆでダコになってしまう。”

 平時はだいたい月に7〜10回ほど、年間だと100回近く開催しています。学校や図書館、はたまた少年院や企業のワークショップなどいろんな場所で開催していて、小学生から作家志望の方までさまざまな方が参加しています。2013年からはじめたのですが、現在までに2万人以上の方が参加してくれました。

——田丸さんの『たった40分で誰でも必ず小説が書ける 超ショートショート講座 増補新装版』は、この講座の方法をもとにしたものです。今回、この増補新装版が発売されました。

 ショートショートでは何よりアイデアが鍵を握ります。作家として、自分なりに面白いアイデアを生み出す発想術を日常的に言語化するようにしていました。この本で紹介しているのはその一つですね。

 やり方はまず、名詞を思いつくままに20個書き出します。「太陽」「ガラス」「タコ」などですね。次に、その単語から1つを選び、その単語について思いつくことを10個書きます。「太陽」なら「発電に使える」「ぽかぽかする」など。そして、この思いついた言葉と単語から一つずつを選んで組み合わせ、面白い言葉をつくります。たとえば「発電に使える」と「タコ」で「発電に使えるタコ」といった感じです。こうして生まれた言葉をもとに、ショートショートを書き上げます。増補版にはこのやり方はそのままに、講座でよく聞かれる質問や、その後の活動で得られた知見などを盛り込みました。

40分で「あれ? 本当に書けてる!」

——本のやり方を見て、実際に僕もやってみたんです。できた面白い言葉は「シワになる積み木」で、こんな作品ができました。

“「古びた積み木」
ハルカの部屋には旅先で買ったポストカードや指輪と一緒に、焦げ茶色に変色したしわしわの塊が置かれていた。
「なにこれ、古代生物の化石?」と聞いてみると、幼い頃に外国へ旅行した時のおみやげで、最初はどこにでもある積み木だったのだという。
「なんかずっと捨てられなくてさ」ハルカはそう言って積み木を指先で遊ぶ。そのそばから、硬そうな積み木がゆっくりとかたちを変えていく。
「それ……どうなってんの?」驚いて、積み木を触らせてもらう。予想していたよりもずっと重い。積み木は私がどれだけ力を込めてもまったくかたちが変わらなかった。”

 いいですねぇ! 積み木は、もちろん普通は形が変わらないものなわけですが、それが変わる、しかもしわしわになるというアイデアがおもしろいです。変形してしまった積み木の映像も浮かんできました。謎が多く奇妙でありながらも、どこかノスタルジーを感じますね。実際にやってみていかがでしたか?

——最初は「本当にできるのかな?」と思っていたのですが、ステップに沿って進めているうちに次第にイメージが次々に浮かんで、いつの間にか物語になっていました。「自分にもできるんだ!」とびっくりしたし、うれしかったです。

 「あれ? 書けてる!」という感想は講座でもすごく多いです。みんな「できているのが信じられない」といったリアクションをされますね(笑)。講座では40分のワークに説明などを加え、90分かけて作品を完成させるのですが、体感時間もあっという間のようです。

——創作活動に「時間がかかるもの」「悩んでなかなか進まないもの」というイメージがある人も多いと思います。でも、田丸さんの方法は「思いついた名詞を書く」「その特徴を書いてみる」といった工程をこなしていくので、悩んでいる暇がなくひたすら書くことに集中できました。制限時間があるので、迷っている暇がないこともあると思います。

 時間が限られていると、かえって脳が活性化しますよね。それから、時間制限がある中でつくると、作品に「素の自分」が出やすいという特徴もあると思います。

——たしかに、僕の作品も時間をかけて悩んで書くより「自分っぽい」と感じるような……。それから本には田丸さんがピースの又吉直樹さんと共作したショートショートも掲載されていますが、あの作品も又吉さんらしいユーモアが存分に発揮されていました。

 あのショートショートはまさに又吉さんらしい作品ですよね。講座でも、「あたしこんなブラックな作品書いちゃった、見せるの恥ずかしいな」と冗談半分で笑っている方をよく見かけます(笑)。特に初めて書く場合だと、どうしても自分自身が考えていることが素材になりやすいし、見え方を気にしている時間もとれないので、その人の「素」が表れることが多いのだろうなと思います。

「書く」体験から読書好きを増やしたい

——そもそも、田丸さんはなぜショートショートの講座を開催するようになったのでしょうか?

 僕がショートショート作家として活動をはじめたときは、「ショートショート」というジャンル自体が一般にあまり知られていませんでした。過去に一時期起こったブームを体験した人にとっては懐かしいもので、僕と同世代から下の人にとっては「何それ?」という人が少なくない状態。このままでは駄目だと思って、自分が書くだけではなく、広める活動もしなくちゃいけないと思うようになりました。

 現在は「本を読む人が減っている」と言われます。だから出版業界の方は皆さん「本を読みましょう」といつも呼びかけていますよね。それはとても素晴らしい、絶対に必要なことだと思うのですが、それだけでは今のところなかなか読書離れが食い止められていない印象があります。そこで「読みましょう」というのは大前提のうえで、さらに「自分で書いてみませんか?」という提案をしてみようと思ったんです。

 書くのが楽しくなった人は、書くことだけではなく、読むことにも興味をのばしてくれるはず。「書く」ことから読書好きも増やしたいというのが、僕の試みですね。

——本では「講座で一番大切にしているのが『楽しむ』こと」とも書かれていました。

 たとえば、学校教育で書く作文や感想文は「評価される」ことが前提の文章です。文章の作法を学ぶ上でこれはとても大切なことですが、一方で自分の思うまま自由に、衝動発信で文章を書く機会はあまりありません。

 講座は、この「衝動発信」の文章を思う存分書く機会になるはず。そうして「書くことは楽しい」と思ってもらえたら、文章を書いたり、本を読んだりする人も増えていくんじゃないかと思っているんです。

 実際、小学校などで講座をしたあとには、図書館で本を借りる子が増えたという声をもらいます。それから、講座の前に「国語や作文が苦手な子はいますか?」と聞くと、少なくない数の子が手をあげるんです。でも、講座を終えてから「楽しかったですか?」と聞くと、みんな満面の笑みで手をあげてくれます。最初は気が散っているように見えた子が、最後の作品を書く時間では自動筆記のように夢中で書いていることも珍しくありません。あの鉛筆が走る音しか聞こえない時間は、すごくうれしいですね。

——僕も書きながらまさに自動筆記のようになって、どんどん物語が広がっていく感覚を味わいました。大人の参加者からはどんな反応がありますか?

 通常のトークショーはその作家を知っている方が来てくれることが多いものですが、講座は「誰でも書けるらしいぞ」と、僕のことを知らない人もたくさん来てくれます。そこで僕の本を買って読んでくださる方も多く、広がっている手応えはありますね。

 それから印象に残っているのは、ブックカフェ「6次元」などを運営されているナカムラクニオさんが講座を受けてくれたときのこと。ナカムラさんは当時からアートディレクターとして活躍されていましたが、僕の講座を受けるまで文章には苦手意識があったと言います。ところが、講座を受けると「こんな書き方があったのか!」と夢中になって、それから1年以上、ほぼ毎日作品を書かれたそうです。そしてナカムラさんは2019年には『魔法の文章講座』という本を出すまでにいたりました(笑)。ものすごくうれしかったです。ナカムラさんに限った話ではなく、こんな風に文章への苦手意識を克服した方が少なくない数いらっしゃるようですね。

日常を彩るショートショートの「空想力」

——新型コロナウイルスの影響でなかなか外出しづらい状況が続いていますが、家で楽しむにもぴったりだと感じました。

 自粛期間に自宅で映画や音楽、読書などを楽しんだ人は多いと思いますが、そうして作品をインプットするのも続けているとどうしても疲れてしまいますよね。僕は「インプット疲れ」と呼んでいるのですが、こうなると今度はアウトプットしたくてたまらなくなってくる。そこでショートショートを創作してみるのは、ぴったりの行為だと思います。

 それから、僕は色々なところで「ショートショートに親しむと、日常が彩られ人生が豊かになりうる」と言っています。ショートショートの「空想力」は、これからの時代にはより重要なことじゃないかと思うんです。

 外出制限によって旅行や移動が難しいときでも、空想の世界ならどこへでも行けます。空想力があれば、身近なありふれているものを違う角度から見られるようになるかもしれません。たとえばリモコンがあったとして、「これが動き出したら……」とか、「ボタンを押すと変な世界につながるんじゃないか?」とか。ばかばかしいと言ってしまえばそこで終わりですが、そうすることで日常がいつもと違って見えたら、なんてことのない自宅での時間が楽しくなるはずです。

 いろんな立場の人の苦しさを想像する姿勢もより大事になってきます。そのときに物事をいろんな角度から見る癖がついていれば、すぐに理解できない誰かの言動に触れたとき「もしかしたらそうかも?」と考えることもできるはず。相手を頭ごなしに否定するんじゃなくて、ポジティブに解釈する柔軟性を持つこと。そんな効果が得られるのも、ショートショートの可能性だと思います。