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BLラバーの書店員がおすすめ!「“ジンガイ”をご存知?はじめての人外BL」

憎しみと愛。相容れぬ感情が渦巻く美しき“猛毒”BL(井上將利)

 人ならざるものを描くことは、人間のそれとはまた違った表現が楽しめる特殊なカテゴリーであり、BLの世界でも確立された一つのテーマであると思います。

 そんな人外の世界で僕が絶対に外せない作品が、文善やよひさんの「鴆-ジェン-」(プランタン出版)です。

 この作品の舞台となる国には鴆(ジェン)という鳥人が存在しており、その美しい羽根や姿から愛玩動物として好まれ、同時に権力者のステータスとなっていました。しかし、鴆は人にとって有毒な食物を好み、その毒素を鮮やかな羽根色に変える生き物で、人が襲われればたちまち死に至る猛毒を持つ危険な存在でした。

 これは、かつて兄弟で鴆を育成する鴆飼(ジェンスー)であったフェイと、国一番の美しさと称される鴆・ツァイホンの愛と憎しみの物語。フェイは昔、自身が育てた鴆を理不尽に失ったことがきっかけで鴆飼を辞め武官に転身していましたが、兄の死により兄が残した鴆の面倒を見ることに……。その鴆がツァイホンであり、そして自分の猛毒で兄を殺した存在でもあるのでした。兄が最後まで愛情を注ぎ続けた鴆はあまりにも美しく、そして殺したいほどに憎い。そんな相容れぬ感情が渦巻く様を感じて頂きたいです。

 そして禍々しくも美しく描かれる鴆がその混沌とした感情を体現するかのようで、作者の圧倒的な表現力に感動を覚えるはず。フェイが猛毒の餌をツァイホンに給餌する場面などは危うくも甘美な不思議な感覚でした。

©文善やよひ/プランタン出版 2015

 2人の関係は複雑でありつつも、フェイは真面目に世話をし続けるうちに、ツァイホンの高飛車でどう猛な性格の裏に何かがあると感じ始めます。ツァイホン自身も親身に接してくれる存在に懐かしさを覚えながら、無理だと分かりながらも誰かと番(つがい)になることを望むようになるのでした。

 僕が最も印象的だったのは、ある時フェイが「外に出たいか?(自由になりたいか?)」と尋ねるとツァイホンは「無理だよ、私には『手』がない」と答える場面。自分の頭を撫でてくれたフェイの兄の手が好きで、今はフェイの手が好きで、……でも自分にはそれが無い。誰かに触れるための手を持たないことは、見世物として、飼われることでしか生きる術がないということ。そんな事実が読者に切なく伝わってくるやり取りでした。

 「美しい花には棘がある」という言葉をそのまま体現したような存在である鴆。ツァイホンの誇りである羽根は、猛毒をはらんだ美しさ故に誰よりも人を遠ざけてしまう。そんな理不尽な境遇でも愛情を注いでくれたフェイの兄を、なぜ彼は殺さなければならなかったのか……。そしてフェイとの関係はどうなっていくのか⁉️

 皆さんもこの“猛毒”に浸ってみませんか?

孤独な鬼×慰み者の美青年。江戸を舞台に繰り広げられる種族を超えた愛(キヅイタラ・フダンシー)

 ヒトならざるもの、人外……流行りの異世界モノでも、オークや竜人などもはやお馴染みなキャラクターですよね。BLでも獣や神や悪魔や、種類はさまざまですが、人外キャラクターの登場する作品は多く、ファンタジー感がグッと高まって、話も面白くなるエッセンスです!実は一番初めの「BLことはじめ」にて人外作品を紹介させていただいていまして(笑)、 僕は「BLってどんなジャンルなの?」という方にもむしろ楽しんでもらいやすいものなのでは、と思っています。今回紹介させていただく作品はこちら!

 こふでさん「べな」(双葉社)

 舞台は江戸。見世物小屋で働く美青年・壱(いち)は見世物にするためのバケモノとして捕らえられた「べな」の世話役になります。獣と思っていたべなは、よく見ればただの幼い少年のようでした。べなを親元に返そうと見世物小屋を脱走した2人は、髪結師に拾われ、長屋で暮らしながら親探しを始めます。

 しゃべることのできなかったべなも熱心に勉強することで言葉を話せるようになり、すっかり壱に懐いていました。いや、懐く以上の感情をべなは壱に対して抱いていたのです――。感情の赴くままに口吸い(キス)をするべなを受け入れられず突き放してしまう壱。半年の月日が流れ、体も大きくなったべなが、とある事件をきっかけに鬼であることが発覚し……!?

©こふで/双葉社

 見世物小屋で命を落とした双子の弟の無念に囚われている壱と、鬼の子として孤独に生きてきたべな。2人が身を寄せ合い気持ちを通わせていく様子が、2人の表情や江戸言葉と相まってじんわり心に染みました。小さい頃の無邪気なべなもかわいいですが、青年になって自分の気持ちを少しずつ理解しながら一生懸命に壱に向き合っていく姿もキュンキュンしますね。べなは鬼といっても角や牙が生えている以外、見た目は人間に近いですが、感情を露わにしたときの顔はまさに鬼気迫るという感じ。最初こそ衝撃を受けた壱でしたが、自身の葛藤とも向き合い、べなを受け入れていく様もグッときました。周りの人が畏怖を抱くものを愛する……そんな種族を超えた愛も、人外BLの魅力の一つだと思います。

 キャラクターの表情も町や服などの細かな描写も、こふでさんの描く世界がとても繊細で味があってスゴイ! 江戸時代の表現が独特ですが、読み返すたびに話の理解が深まって面白いですよ! 続きも楽しみな2人の物語、ぜひ味わってみてください♪