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人と動物、様々にふれあう 「猫の傀儡」など澤田瞳子さんが薦める新刊文庫3冊

澤田瞳子が薦める文庫この新刊!

  1. 『猫の傀儡(くぐつ)』 西條奈加著 光文社文庫 726円
  2. 『乱』 矢野隆著 講談社文庫  836円
  3. 『鮪立(しびたち)の海』 熊谷達也著 文春文庫 1023円

 時に人に寄り添い、時に人と対峙(たいじ)する動物が様々な形で登場する三冊。

 (1)猫の世界には、人を遣い、人を操り、猫のために働かせる傀儡師なる仕事があるという。猫町(ねこちょう)こと米町(よねちょう)に暮らすミスジ(二歳オス)とその傀儡の狂言作者・阿次郎がお江戸に起きる様々な謎を解き明かす短編連作。ミスジの兄貴分・順松(よりまつ)の失踪の謎が人間の事件と絡み合い、宿敵ながらもダンディーなカラスの三日月、箱入り娘の白猫ユキなど脇役陣も魅力たっぷりだ。

 (2)母を失い、森の中で一人生きてきた野生児「虎」。人の世に引きずり出された彼と、神の子として生きよと求められる少年・四郎の二人を軸に、九州・島原の乱を斬新な解釈によって描いた長編。泰平(たいへい)の世を全きものと成さんとする老中・松平信綱や柳生宗矩の謀略が、虎と四郎の純粋さを際立たせる。

 (3)筆者はこれまでに、宮城県・気仙沼をモデルとした架空の港町〈仙河海(せんがうみ)〉を舞台とする「仙河海サーガ」を八作発表しており、カツオ船に乗る父と兄に憧れる少年の成長を、昭和の敗戦およびその後の復興と重ね合わせた本書はその最新作。カツオの一本釣りから遠洋マグロ延縄(はえなわ)漁へと漁法こそ変わっても、人と魚の戦いという釣りの基本と、豊かな海の色は変わらない。

 明治から昭和初期を舞台とする『浜の甚兵衛』や東日本大震災前後を描いた群像小説『希望の海 仙河海叙景』と繋(つな)がる逸話も多く、併せてお読みいただくのもお勧めだ。=朝日新聞2020年6月27日掲載