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離れてもつながる 湊かなえ

 自分の声が好きではありません。

 偶然見えた、ある店のお客様情報シートの「特徴」欄には、「子どもみたいな声」と書かれていました。セールス電話の第一声は、大概、「おうちの人はいますか?」で、50歳に近い大人に対して、誰を出せと言っているのか、理解不能です。

 そんな私が、ラジオのパーソナリティの依頼をいただきました。FM大阪の、母校・武庫川女子大学提供枠で、なんと、「湊かなえ」の名前を冠した番組を作ってくれるというのです。しかも、内容は私にまかせてくれる、とも。

 47都道府県サイン会や海外のブックフェアなどを通じ、作家と読者のさらなる繋(つな)がりの場を模索していた最中です。二つ返事で飛びつきたいところですが、頭の中でブレーキがかかりました。

 待て、待て。この声を、30分間も電波に乗せていいのか?

 ある生放送のラジオ番組にゲスト出演した際、「声がぶりっ子」と、番組の放送時間内に直接メッセージが届いたこともあります。楽しそうな調子ではありましたが……。

 断ろう。そう思った矢先の新型コロナウイルスです。私のサイン会は読者と対面で、短いながらも会話をし、ご希望の方とは握手もします。定員100名、大概、書店内の通路に並んでお待ちいただきます。今後は様式を見直すとしても、実施できる日は遠そうです。

 歌手や演奏家の方々が、個々に離れた場所から一つのパフォーマンスを完成させる動画を見ていると、作家も読者の方々とこういうことができたら面白そうだな、という気持ちも湧いてきました。

 おそるおそる新しい扉を開き、ラジオ番組『湊かなえの「ことば結び」』が始まりましたが、「みんなで短編小説」などの内容についてだけでなく、「声が心地いい」と褒めてくれる方もいて、長年のコンプレックスから解放され、何事もチャンスだと信じて挑戦してみるものだと、背中を押していただきました。=朝日新聞2020年7月1日掲載