新型コロナによる非日常が続くなか、二つの文芸同人誌が相次いで創刊した。発行日は、ともに6月20日。偶然にも同じタイミングで船出した2冊は、「いまここ」の文学を届けようとする切実さがにじむ。
「海響」は、ライター・編集者の小澤みゆきさんが企画した。創刊号の特集は「大恋愛」。恋に恋する女と彼女に恋する男の、成功しない逃走劇を描く太田知也さんの短編「けだもの」や、台湾出身で芥川賞候補になった李琴峰(りことみ)さんが自身の恋愛体験をつづった随筆など、甘くも苦い文章が並ぶ。
一方、海外のSFや幻想文学をあつめた「BABELZINE」は、サークル「週末翻訳クラブ・バベルうお」の白川眞さんが主宰。ピーター・ワッツ「血族」(藤川新京訳)など11の短編を、原作者の許可を得て翻訳掲載した。
白川さん自身による評論「疫病時代のバーチャルリアリティと性の想像力」も、仮想現実(VR)を切り口に「コロナ時代の愛」の可能性をさぐる好編。会えても会えなくても、人は恋をする。(山崎聡)=朝日新聞2020年7月8日掲載