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「治虫の国のアリス」 不思議な“オサムランド”を右往左往

 マンガの神様・手塚治虫が生み出した作品は、およそ700タイトルにのぼるという。重厚なヒューマンドラマから医療もの、サスペンス、ギャグと一作家の手によるものとは思えないジャンルを網羅した作品群を、俯瞰(ふかん)して見ることができたなら……。そんな夢のような作品が誕生したのは、手塚生誕90周年を記念した媒体「テヅコミ」での掲載だったことかつ、この著者だったからこそ。

 ある日、森で姉に手塚治虫全集を読んでもらっていた少女・アリスは、突如現れたうさぎを追いかけ穴に落ちてしまう。そこに現れた火の鳥に、「元の世界に戻る方法を探さなければなりません」と告げられたアリスは、突如大きくなったり、空を飛んでいると思いきや海の中だったりの不思議な“オサムランド”を右往左往。読み手は、神が創りし並行世界が滑らかに連なった世界で、「このキャラクターは!?」「これはあの名シーン!」と存分に記憶の神経衰弱を楽しむことができる。

 終盤、この世界の真実に辿(たど)りついたアリスは、別の階層へ。このメタ展開に、著者の深い手塚愛、マンガ愛を感じた。読了後は手塚作品を読み返したくなること必至。かくて物語は本作の外でも続く。=朝日新聞2020年7月18日掲載