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花園照輝「悲しいことなんかじゃない」 多感な若者を「今」の感性で描く

花園照輝著『悲しいことなんかじゃない』

 びっくりするぐらいあけすけで、巣穴から出ようとしない小動物のように慎重で。そんなアサヒは、親友のサナがバンドマンの彼氏・タクマに貢いでいることにモヤモヤしている。ある日、アサヒはひょんなきっかけからマンガ家を目指す隣人、前田と交流を持つようになり……。

 どんなに仲の良い友人であっても、どんなに好きな相手でも、人は他者に言えない本心を抱えて生きている。では、自己主張より共感を大切にし、昭和、平成より人との距離を測るセンサーが鋭敏な今の若者は、どれほどの「言えない思い」を抱えているのだろう?

 無防備な恋人が寝ている横でのサナのモノローグ「考えるコトって全部疲れる」に、そんな思いが過(よぎ)った。

 かと思えば、出会って間もない他者に、さらりと秘密を打ち明けてしまう人もいる。言える、言えない。その違いはどこからくるのだろう? 簡単には言語化できないその違いを、著者は多感な若者の心の奥底にダイブしつつ鮮やかに描きだしてゆく。性格は違えど、傍(そば)にいるアサヒとサナ。将来の不安に涙する前田と受け止めるアサヒ。その関係性も魅力的。若い男女が味わう普遍的な恋の甘さと苦みに、「今」の感性が息づいた物語だ。=朝日新聞2026年2月7日掲載