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絹田みや「友達だった人 絹田みや作品集」 懸命に生きる人の背そっと押す

 先日の本紙に、希少ガンで没した若者が自らの訃報(ふほう)をSNSにユーモア交じりに予約投稿したのを見た人々によるガン研究機関への寄付急増を報じる記事があった。差別や誹謗(ひぼう)中傷の道具にもなるSNSがプラスに作用した好例だが、本書の表題作もSNSでつながった人の死にまつわる物語だ。

 主人公の女性は、SNSで知り合った「ささみ」「ヘルニア」と、日々他愛(たわい)ないやりとりを交わしていた。顔も本名も知らないのに妙に気が合って、「いつかオフ会したいなぁ」なんて話も出るほどに。しかし実はささみは希少ガンの闘病中で、病状悪化を思わせる投稿が増え、ついにある日、妹による訃報と葬儀日時の告知が流れる。

 その葬儀の記帳場面から始まり、過去のSNS上の交流と葬儀会場を往来しながらキャラクターを浮かび上がらせていく手際は鮮やか。文字での会話だけだった相手との関係を自問自答し咀嚼(そしゃく)し直す主人公の誠実さに胸が熱くなり、ヘルニアとの邂逅(かいこう)と美しい結末には「いいね」を連打したくなる。

 ほか3編の収録作も含め、抑圧や後悔に悩まされながらも懸命に生きる人の背中をそっと押す。すっきりした描線と奥行きある画面は開放感あり。また一人、新たな才能が現れた。=朝日新聞2025年12月6日掲載